動き出す歯車
「さとる、どこ行くのー」
「どこって仕事に決まってるでしょー。今日は大阪だよ。すみれもくるー?」
「行かなーい。今日はゆーじと遊ぶー」
「すみれってばヒドいなー。僕泣いちゃうよ」
「さとるは強いから泣かない!」
僕の周りをちょろちょろと駆け回ってるすみれに声をかけてみるも無惨にフラレた
「えー、僕だって泣くんだよ?」
僕の話をちっとも聞いていない様子のすみれはいそいそとオリヴァーを背負ってガチャっと僕の部屋を出ていってしまった
「行ってきまーす」
「あ、ちょっとすみれ!…まったく。人の話を聞かないところは誰に似たんだか」
飛び出していったすみれの呪力が悠仁たちのいる教室に向かっていることを六眼で確認して僕は僕に回ってきた仕事をこなしに高専から外へ出た
†‥虎杖side‥†
今日も今日とて五条先生は単独任務で不在っぽい。俺と伏黒と釘崎で自習と言う名の雑談を繰り広げていた
そんな俺たちのいる教室のドアをガラッと音を立てて開けたのはすみれだ
「ゆーじー!あーそーぼ!」
「お!すみれー。今日はなにする?」
「んとね…」
うーんと悩むすみれ。すみれと遊ぶ時はいつも多種多様だ。かくれんぼだったり鬼ごっこだったりだるまさんがころんだだったり…。
かくれんぼはだいたい伏黒が勝つ。玉犬がいる時点で反則だよなぁ…だってさ呪力の匂いとか追っかけてくんだせ?どうやって呪力の匂いとか消すんだって話じゃん
すみれの呪力は白くて珍しいし、なにより伏黒の式神がすみれのこと好きすぎてすぐ見つけちゃってよく怒ってる。仕方ねーのにな。あまりにも激おこぷんぷん丸してるので伏黒曰く、最近は俺か釘崎を見つけてからすみれを探すように式神に命じてるらしい
ちなみに鬼ごっこは俺が勝つ
「ああ、皆さんコチラにいましたか」
「伊地知さん?どうしたんですか」
何をして遊ぶか悩んでいるすみれの答えを待っているとすみれの後ろから補助監督の伊地知さんが顔を出した
「緊急事態です。皆さんに任務が割り振られました。ご準備をお願いします」
メガネをクイッと上げた伊地知さんの声に俺たちの間にピリッとした空気が流れた
伊地知さんが運転する車に乗ってやってきたのは西東京市にある英集少年院という場所だった
「我々の窓が呪胎を確認したのが3時間ほど前。避難誘導9割の時点で現場の判断により施設を閉鎖。しかし5名の在院者が現在もそこに呪胎と共に取り残されております」
車の中で俺たちに割り振られた任務の内容を伊地知さんが説明をしてくれる
教室に俺たちと一緒にいたすみれは置き去りにするわけにもいかないので一緒に車に乗って任務地までやってきている
「小娘、
「オリヴァー?はい、どーぞ」
「おい、宿儺。そうやってすみれとオリヴァーにちょっかいすぐ出すのやめろよなー」
「……」
「無視か」
人が真面目に伊地知さんの話を聞いているっていうのにこの呪いの王様は俺の手を勝手に動かして任務にくっついてきたすみれの持つオリヴァーにちょっかいを出し始めた
「あっ…ちょ…くすぐったいんだけど!」
そして宿儺はいつか見た指先に呪力を溜めオリヴァーの口の中に突っ込むと条件反射のようにオリヴァーは俺の手を咥えて指先に集まっている宿儺の呪力をモグモグと食べ始めた
このゾワゾワとした感覚に身体を震わせていると後頭部に鈍い衝撃が走る
「いでっ!」
「おい、虎杖。真面目に聞け」
「いや、だって伏黒見て!不可抗力!!」
殴られた頭を押さえて振り返ると拳を握った伏黒がいた
「はぁ…すんません、伊地知さん。続きお願いします」
「はい。では、続けます。この呪胎ですが変態を遂げるタイプの場合特級に相当する呪霊に成ると予想されます」
…特級かー
伊地知さんから出た"特級"という言葉に伏黒の釘崎の顔が引きつった
「なぁなぁ、俺特級とかまだイマイチ分かってねぇんだけど」
「はあ?虎杖、アンタ今まで何勉強してきたのよ」
「?座学ほとんどやってねーじゃん」
「では簡単に説明しましょう。猿でもわかる呪霊の等級講座です。まず前提として本来呪霊に通常兵器は通用しません。ですがココでは一時的に有効だとして話しますので決して通常兵器を用いて呪霊に向かって行かないように」
「はーい」
「最初に4級ですがこちらは木製バットで余裕で祓えます。ちなみにすみれさんがよく高専内で捕まえて遊んでいるのはこのさらに下の等級を持たない蠅頭と呼ばれる呪霊です」
「よーとーちゃん、いっぱいいる!でもすぐるの真似して食べたらすぐるすごいおこる…」
「そりゃ夏油先生じゃなくても怒るだろ…」
「そもそも蠅頭って美味しいのかしら」
「「美味しくない!/不味い!」」
釘崎の疑問に俺とすみれが声を合わせて答えた。だよなーとすみれと一緒にうげぇという顔をしてぶふっと笑い合う
「はあ?なんで虎杖が答えるのよ」
「宿儺の指がすっげぇ不味いから蠅頭もそうだと思って。呪霊は食ったことはねーけど」
「そもそも呪物も呪霊も食いもんじゃねーよ」
「えっと…皆さん。続けてもいいでしょうか?」
伊地知さんがこめかみの汗を拭いながら聞いてきてしまったという顔をしながら伊地知さんを見る
「3級はまぁ拳銃があれば安心ですね。次に準2級を含む2級ですが散弾銃でギリです。そして準1級を含む1級クラスですが戦車でも正直心細いです。で、今回の特級ですがクラスター弾の絨毯爆撃でトントンというレベルですね」
「マジか〜。超ヤッベェじゃん」
「そもそも任務は呪霊と同等級の術師が任務に当たるんだ。今日の場合だと五条先生とかな」
「で、その五条先生は今日はどこ行ったの」
「さとるはね〜オオサカってところに行くって朝、言ってたー。呼吸チョコ買って来るねーって!」
五条先生と一緒にいることが多いすみれに聞いてみるとやっぱり五条先生は出張中だった
「そもそも五条先生は高専でプラプラしてていい人材じゃないんだよ。すみれのことがあってもな」
「そういやココ最近はずっと高専にいるわよね。夏油先生の方が居ない確率が高いわ」
「あの人も五条先生と同じ。五条先生が高専にいる分夏油先生の出張率が段違いで上がってんだよ」
「ふぅ…もう良いぞ小娘」
宿儺の声に俺の手がペッとオリヴァーから吐き出される。全く人をバッチィものみたいに吐き出しやがって失礼な呪骸だ
宿儺の呪力を食べたすみれのオリヴァーは屈伸運動をして軽いジャブを繰り出していた
「この業界はご存知の通り人手不足が常。手に余る任務を請け負うことは多々あります。ただ今回は緊急事態で異常事態です」
伊地知さんはそういうとメガネをクイッとあげて俺たちに視線を向けると車を降りたので俺たちもそれに続いて車を降りる
「絶対に戦わないこと。特級と会敵した時の選択肢は逃げるか死ぬか…です。自分の恐怖には素直に従ってください。今回の君たちの任務はあくまで生存者の確認と救出です。祓除ではありません」
伊地知さんに今回の任務の最終確認をされていると一人の女性が規制線の向こう側で声を上げていた
「あの!正は…息子は大丈夫なんでしょうか?」
「面会に来ていた保護者です」
伊地知さんは慣れているのかその女性に向かって俺たちの姿を隠すように前へ出ると嘘をサラリとそれらしい事実のように伝えていた
「何者かによって施設内に毒物が撒かれた可能性があります。現時点でこれ以上のことは申し訳ございませんが申し上げられません」
「伏黒、釘崎。助けるぞ」
「当然」
「…」
「ゆーじ、のばら、めぐみ。気をつけてね」
不安そうな顔で俺のズボンを握りしめているすみれの手を上から優しく握ってニッと笑った
「大丈夫よ!任せなさい」
「帰ってきたらいっぱい遊ぼうな!」
「うん!」
少年院を目の前に俺たちは気合を入れなおす。俺たちの後ろで伊地知さんが指を立てた
「帳を下ろします。皆さんお気をつけて」
−闇より出でて闇より黒く
「いじちー。夜になった」
「ええ、これは虎杖くんたちを外から隠す結界です
さ、すみれさん。濡れますから車に戻りましょう」
「はーい。オリヴァーもいこ」
「今はおりゔぁーではないぞ」
「あ、そっか!いこ!すくな!」