ゆーじは生きていた

−虎杖悠仁が死んだ−

出張に行っていた僕の耳に飛び込んで来たのは信じられない情報だった

「邪魔だ」

「どうしたんだい、悟。随分荒れてるじゃないか」

「傑、高専に戻るぞ。悠仁が死んだ」

「は?悟、なんの冗談だい?」

「冗談なんかじゃない、硝子からだ」

硝子から届いたLINEには簡素なメッセージとすみれが泣きじゃくっているという状況だった

高専に傑と最速で戻ると校門の前にはすみれがボロボロのオリヴァーを抱きしめて泣いていた

「すみれ」

「!さとる!すぐるっ!ゆーじ、ゆーじがぁ…」

「辛かったね…すみれ」

ショックが大きすぎたのだろう。すみれの涙は結晶化することなく濡れた地面に吸収されていた

僕がすみれを抱き上げるとぎゅうっと力いっぱい抱きしめて泣いている

「傑、オマエはどうする?」

「どうって?」

「僕は硝子の所にいくけど」

「ああ、わたしは…」

傑の言葉が不自然に切れてどうしたと思ったがすみれが傑の僧衣を片手でぎゅうっと握りしめていたからだ

「わたしも行くよ」

傑と2人肩を並べて歩く。今回の悠仁の死はおかしな点が多すぎる

「おかしいと思ったんだよね」

「私と悟が二人で出張に行ったことかい?」

「そ、特級が二人同じ任務ってどんだけ凶悪な呪霊なんだよって思って蓋を開けたらビックリ。単に数が異常に多いだけって」

「ああ、それは私も思ったよ。何か厄介払いをされたかのようさ」

硝子の居る解剖室に着くとすみれが顔を上げた

「どうする?すみれ、恵たちのとこ行ってる?」

「行かない。すみれもココにいる」

中に入ると伊地知が一人肩を竦めながら立っていた

「わざとでしょ」

僕がそういうと最後にあとから入ってきた傑がガラガラと扉を閉めた

僕は置いてあった台の上に腰を下ろすと倣うように傑も腰を下ろした

「…とおっしゃいますと…」

「特級相手、しかも生死不明の5人の救助に1年派遣はあり得ない。僕が無理を通して悠仁の死刑に実質無期限の猶予を与えた」

「面白くないと思った上層部が私達のいぬ間に特級を利用して体良く虎杖くんを始末したってところ…かな」

「そう、他の2人が死んでも僕に嫌がらせができて一石二鳥とか思ってたんじゃない?」

「いや…しかし、彼らの派遣が決まった時点では本当に特級に成るとは…」

「犯人探しも面倒だ。上の連中全員殺してしまおうか」

「おや、その時は私も混ぜてくれよ。悟」

「さとる、降りる」

すみれの言葉に僕は抱いていたすみれをそっと下ろすとすみれはパタパタと奥のドアに駆けていった

その様子を目で追っていると硝子がその奥から顔を出した

「珍しく感情的だな」

「しょーこ」

「すみれ、やっと泣き止んだね。あーあ、目が真っ赤じゃないか」

硝子はすみれの前でしゃがむとすみれの目元を親指でほぐすようにマッサージをしたあと頭をよしよしと撫でると僕たちのいる方へ歩いてくる

「随分とお気に入りだったんだな、彼」

「僕はいつだって生徒思いのナイスガイさ」

「あまり伊地知をイジメるな。私達と上の間で苦労しているんだ」

「男の苦労なんて興味ねーっつーの」

「そうか。で、コレが…」

家入は一枚のシートを勢いよくめくった

そこには血の気を失い心臓の辺りにポッカリと穴が空き冷たくなった虎杖の身体が横たわっていた

「宿儺の器か。好きに解剖していいよね」

「役立てろよ」

「役立てるよ、誰に言ってんの」

悟と硝子が虎杖の遺体を前に話し込んでいると私の元にすみれがやってきた

すみれが私の僧衣をちょんちょんと引っ張るのでしゃがんで欲しいという意思表示だと理解してすみれの前にしゃがんだ

「ねぇねぇ、すぐる」

「どうしたんだい、すみれ」

「あのね、すぐる。さとるに内緒にしてね」

すみれはコソッと私に耳打ちをした

「ゆーじがすみれのことハツコイだったんだって。すぐる、ハツコイって知ってる?」

「は?!」

「すぐる!シー、シーだよ!」

「傑〜、急にデカい声出してどうした?すみれも2人でコソコソ何してんの」

「な、なんでもないよ、悟。それは虎杖くんが言ったのかい?」

「うん、ゆーじがねバタって倒れる前に…」

「そうか」

「あとね、まださとるに言ってないんだけどすみれトバリ下ろせるようになったの」

「帳を?」

「うん、いじちは白いトバリは初めて見たって言ってた」

「後で見せてくれるかい?」

「うん、さとるとしょーこと一緒にみて…あ…」

「小娘、小僧が起きるぞ」

すみれに抱きしめられていたオリヴァーがふるふると揺れて喋り出した

「すくな!」

「起きるって彼は死んでいるんだぞ。すみれに嘘をつくのはやめなさい」

「嘘ではない。小僧は一度死んだ。小僧が死のうが俺にとってはどうでもいいと思っていたが少し事情が変わったのだ」

傑とすみれが部屋の端でコソコソと何やら話を始めたと思ったら傑が突然大きな声を出した

なんだと聞いてみたが答える気はないらしい

そしてすみれが持つオリヴァーに宿儺の力が入り込むのが分かった。本来、器が死ねば中の呪霊も消滅するはずなのだが…。まあ、すみれの近くには傑が居るし問題はないだろう

仕方なく僕は隣に立っている伊地知に話を振ることにした

「僕はさ性格悪いんだよね」

「知ってます」

「伊地知、後でマジビンタ」

「マジビンタ?!」

「教師なんて柄じゃない。そんな僕がなんで高専で教鞭をとってるか…聞いて」

「なんで…ですか?」

「夢があるんだ」

「夢ですか」

…僕には夢がある

すると僕の目の前をすみれが悠仁の名前を呼びながら駆けていった

「ゆーじ!」

「そ、悠仁のことでも分かる通り上層部は呪術界の魔窟。保身馬鹿、世襲馬鹿、傲慢馬鹿、ただの馬鹿。腐ったミカンのバーゲンセール。そんな呪術界をリセットする」

「上の連中を皆殺しにするのは簡単だ。でもそれじゃ首がすげ替わるだけで変革は起きない。そんなやり方じゃ誰も付いて来ないしね。だから僕は教育を選んだんだ。傑も巻き込んで」

「強く聡い仲間を育てることだね?」

「そう。そんなわけで自分の任務を生徒に投げることもある…。愛のムチ」

僕の脳裏に過るのは優秀な生徒たちの顔

「3年の秤、2年の乙骨。この2人は僕たちに並ぶ術師になる」

…悠仁もその一人だったというのに

ぎゅうとやり場のない怒りがこみ上げてきて手を握りしめた

「ちょっと君たち、もう始めるけどそこで見てるつもり?」

「ゆーじ、ゆーじ!こっちだよ!ゆーじ!」

横たわっている悠仁の遺体にすみれが必死に呼びかけている

いくら別世界で間接的に人の死を見ていたとしてもナマで見るのはワケが違う。これは現実だ。やはりすみれにはキツイだろう。受け入れろという方がムリな話だ

「すみれ、危ないから五条のとこ戻ってな」

「違うの、しょーこ。切っちゃダメなの!」

珍しく硝子の側で駄々をこねるすみれにどうしたと思っていたが僕達の目に飛び込んで来たのは信じられない光景だった

死んだはずの悠仁の身体がゆっくりと起き上がったのだ

「おわ!フルチンっ!」

「ご、ご、ご、五条さん!!げ、げ、夏油さん!!い、いいい、生き」

「クックッ、伊地知うるさい」

「おや」

「え〜ちょっと残念」

「あの〜さすがに恥ずかしいんすけど、てかおねーさん誰?」

座っていた椅子から立上がって悠仁の元に歩いていく

生き還った悠仁の身体にはキズ一つなく健康体そのもの

すみれは悠仁が生き還ったのを感じとったのだろう。だから硝子に切るなと言ったのだ

「悠仁!おかえり!」

手を差し出せばパンっと応える悠仁に生き還ったのは現実なんだと嬉しかったと同時にある不安が過る

悠仁は宿儺とどんな縛りを課して生き還ったのかということ

でも、まぁ今は悠仁が還ってきたことを喜ばないとね

「オッス!ただいまっ!」

ゆーじは生きていた
「ゆーじ!」
「おわっ!すみれ!ちょっと待って、俺まだ裸…」
「おかえり、虎杖くん」
「え、夏油先生!?」
「還ってきてそうそう悪いがすみれが初恋なんだって?」
「え…あっ!そ、それは…。そういえば、俺用事が」
「生き還ったばかりで用事などあるわけないだろう」
「こえええええ…」
「悟には内緒にするから、詳しく教えてくれるかい?」

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