ななみんと一緒

広げた英字新聞に目を通しているとその英字新聞に突如2つの小さな穴が開いた

その小さな穴から覗く紅い宝石

「ふぅ…すみれさん、何をしてるんですか」

「さとるが新聞を広げてる人にはこうしろって。スパイだから」

七海が新聞を畳んで目の前のすみれを見ると小さな手でピースをつくりピクピクと動かしていた

…まったくあの人はこの子に何を教えているんだ

「やめなさい」

「ななみん、困る?」

「困る、困らない以前に危ないです。それに穴は自分から開けるもので他人が開けるものではありません」

「危ない…分かった」

コクンと頷いたすみれは七海が座るソファーの隣にちょんと座った

カチコチカチコチと部屋にかけられた時計の秒針が時間を刻む中すみれと七海は特に何か会話をすることもなく呆けていた

耐えられない沈黙ではない

むしろ終始うるさいあの人が面倒を見ているわりには随分と大人しいなと七海は思った

「今日、五条さんはどうしたんですか?」

「さとるはすぐるとお出かけ〜。みかん狩りだって。良いな。みかん。すみれもみかん食べたい」

「みかん…」

ミカンの季節は残念ながら今ではない

五条さんと夏油さんは上層部のことを腐ったミカンと言う時がある

つまり五条さんがすみれさんに伝えたみかん狩りとは上層部にちょっかいを出しに行ってくるということ

その間はすみれさんの側に居られないので私の所に寄越して来たという想像は容易についた

「はぁ…」

「ななみん、疲れてる?」

「いえ、めんどくさいことにならなければいいな、とは思ってます」

私は五条さんや夏油さんの後輩なので、多少目にかけて貰っている所もありますがあくまで私は規定側の人間のはずなんですけどね

「ななみん、ななみん」

「なんですか?」

「すみれもそれ読む!」

「コレ、ですか?」

「うん」

すみれが指さしたのは穴の開いた英字新聞

「すみれさんには少し難しいのでは?」

「じゃあななみんが教えて!」

「それは構いませんがすみれさんにはこちらの方がよろしいかと」

以前、五条さんに会ったときに無理やり渡された絵本

「なにそれ?」

「森のくまさん、です」

「もりの、くまさん」

「くまさんです」

すみれさんを見ると子ども扱いされたのが不服なのかぷぅっと頬を膨らませていた

「や!」

「ふぅ…」

七海は一つ息を吐いてからすみれの身体を抱えると自身の両足の間にすみれを下ろした

「?」

すみれは七海の顔を下から見上げ首を傾げた

「試しに読んでみますか?」

「うん!」

再び新聞を広げるとそこには先程すみれが開けた小さな穴が2つ

「穴が空いてる」

「すみれさんが開けたんですよ。読めなくなるのでもう開けないでくださいね」

「はーい」

すみれの頭は七海の胸より少し下あたりにある

ふと視線を下ろした七海は無意識にすみれの頭に手を乗せた

ピクッと反応したすみれはその手が七海の手だとわかるともっともっとというように七海の手を取ると頬ずりをする

「勝手に触ってすみません」

「なんで?すみれ、ヤダって言ってないよ」

「それでも女性に軽々しく触れるのは良くないかと…」

「むぅ…ななみん、難しい言葉使う。すみれ、難しいことわかんない」

ぽすんと七海に背中を預けたすみれはふふっと笑うと足をパタパタと遊ばせる

「すみれはななみんのこと好きだからいーの。ななみんはすみれのこと好き?」

「そうですね、少なくとも嫌いではありません」

「そっか」

私とすみれさんが喋っているとガサッと新聞を暖簾のように押し退けてすみれさんの呪骸が私とすみれさんのもとにやってきた

「あ、オリヴァーやっときた!」

「あの時、すみれさんが背負っていた呪骸ですね」

「うん!夜蛾がくちょーに作ってもらったの。オリヴァー何持ってきたの?…るるぶ。るるぶってなに?ななみん」

「ガイドブックですよ。これは北海道のですね」

「ほっかいどー」

「日本で一番北にあるところです。ところでなぜオリヴァーがこれを?」

七海が言うとオリヴァーは待ってましたと言わんばかりに手にしたるるぶをペラペラと捲って1枚のメモ用紙を七海に手渡した

「私ですか」

コクンと頷いたオリヴァーは七海に紙を渡すと途端に興味をなくしたようにるるぶをすみれに押し付けるとすみれを正面から抱きしめるようにひっついた

七海はメモ書きに目を通す

「…はぁ」

「ななみん?」

「いえ、なんでもありません」

…次の北海道出張、僕とすみれも行くから

端的に書かれた言葉に厄介なことにならなければいいなと思いながら私は新聞を読むことを諦めてすみれさんの呪骸が持ってきたるるぶのページをめくった

気分はすでに北海道だ

ななみんと一緒
「あれ、すみれ寝てる」
「本当だ。七海にも懐いてるね」
ミカン狩りを終えて応接室に行くと
すみれは七海に背を預けてスヤスヤと寝息を立てていた
そして七海もまた珍しく目を閉じて寝ているようだった
「はあ、せっかく北海道旅行の計画立てようと思ったのに」
「その必要はないんじゃないか?悟、見て」
「はは、なぁんだ。七海も楽しみにしてるってこと?」
付箋の貼られたるるぶに五条と夏油は笑みをこぼした

|

小説Top|Top