北海道任務-中編-
じゃがバターを食べ終えた五条、七海、すみれの三人は大通公園を東に、テレビ塔に向かって歩いていた
都市の大動脈と呼べるほど大きな道のはずなのだが意外なことに歩いている人は少ない
「んで?今回調査するのはどんな阿漕な呪詛師なんだっけ?そもそも呪詛師かどうかも曖昧だけど」
「あやふやなままついて来たんですか」
「どうせ対処するのは僕じゃなくてオマエだからね」
「じゃあついて来ないでくださいと言いたいのですが…というか、結構腹に溜まる物食べた後によくソフトクリームなんて食べれますね」
げんなりとしたトーンで言う七海の手にはソフトクリームがあった
「いやオマエも食ってんじゃん。それにデザートは別腹っていうでしょ」
「さとる、さとる。すみれも食べる!ちょーだい!」
チーズとミルクのツインソフトクリームを零さないよう器用に舐めながらすみれを片腕に乗せた五条は当然のごとく七海の前を歩いていた
「ん、はいどーぞ。すみれ零さないでね」
五条の首に腕を回したすみれは器用にバランスを取りながら五条の持つソフトクリームを小さな赤い舌でペロリと舐めた
「んまっ」
「だろー。やっぱり北海道に来たらソフトクリームはこれでしょ。クッキー&クリームを選ぶ七海はまだまだだな」
「私が何を選んでも私の自由では?五条さんには関係ありませんよね?」
「ななみん、ななみん。それ、すみれにもちょーだいっ」
「すみれ、クッキー&クリームは邪道だって言ってるでしょ!僕のにしなさい」
「やーだー。クッキーとクリームも食べるー」
「はぁ…」
七海はため息を吐きながらもすみれの前に自身のソフトクリームを差し出すとすみれは小さな口を開けてパクっと食べた
「んまー」
「はいはい、良かったね」
すみれが一口食べたのを確認するともういいだろと言わんばかりにスタスタと歩いていく五条を七海は追いかけた。普段の五条であれば七海に聞くまでもなく任務内容を把握している
それでも七海に任務の内容を聞いてくるということは五条自身が今回の情報を一切仕入れていないということ
つまり五条も自分が出るほどの事件ではないことを分かっていてこの任務についてきたということだった
本当に暇つぶしで遠路はるばる北国に来るほど五条が暇人ではないことを七海自身理解しているので何故五条がこの任務について来たのか理由が知りたかった
その真意を知るには速やかに今回の任務である人形騒ぎを解決する他ないと七海は分かっていたからこそ今回の任務内容を完結に五条へ伝える
「発端は黄泉比良坂と呼ばれるサイトです」
「へぇ〜、すごいネーミングセンス。厨二病?」
「…。はぁ…検索エンジンからは辿り着けないように独立したサーバー内に設けられたサイトですね。伊地知くんが見つけました」
「アイツは優秀だからね、当然でしょ」
五条の口振りからして彼は伊地知を締め上げて七海の行き先を特定したのだろう
「で、その悪趣味なサイトはどういう目的なわけ?まさか面白動画が見られるってワケでもないんだろ?」
「サイト自体は簡素なものでした。なんなら懐かしくなるくらいです」
「アクセスカウンターが置いてあって、キリ番踏んだら報告しなくちゃいけない感じ?」
「そういうやつですね」
「かぁー、分かっちゃう自分がイヤだ」
「歳ですから、私たちも」
五条が持っていたソフトクリームは大人の会話についていけないすみれがパクパクと食べ進めていて上部が綺麗に平らになるとケプっと小さく空気を吐き出した
五条はそれを確認すると手元に残ったコーンを齧った
「結局のところ、そのサイトは呪詛師へ連絡を行うための窓口のようでした」
「窓口ねぇ」
「入力フォームがあって依頼内容を書き込むんです。そうすると現金書留の宛先が表示されて商品が購入できます」
「随分、アナログだな」
「住所は零細不動産が所有する二畳一間のシェアハウスだそうです」
「そんな狭くてどこをシェアすんの」
「郵便受けが20個ほど。簡易的な私書箱として利用しているようでしたよ」
「手口がさぁ、ヤクザのフロントじゃん、それ。呪詛師の発想じゃないね」
「良くも悪くも歴史ある家系の呪術師ならば、まずこういうルートの整備を行う発想はないでしょうね」
「…で?結局なんの通販なわけ?蠅頭程度の呪霊を祓う呪具でぼったくりとか他人を呪って小遣い稼ぎ程度じゃオマエが呼ばれる理由が分からない」
「察しがよろしいことで」
「誰と喋ってんのか考えろよ。オマエが呼ばれてるのに僕が詳細を知らないなんて上のジジイ共が隠したい案件ってことでしょ」
「だとすれば、私が詳細を話すのを禁じられているという可能性も考えられると思いますが…」
「関係ないね。僕がその気になったら口を割らせるなんて赤子の手をひねるくらい簡単だから。奴らにできることはせいぜい事件そのものを知られないようにすることだけ。ってことは僕が此処にいる時点で詰み」
「毎回思うのですが、それだけ頭が回るなら自分で調べてくれませんかね?」
「不可能でなくても面倒なことは後輩を使うのが一番手っ取り早いんだよ」
五条の発言に七海は深いため息をついた
別に詳細を話すのを躊躇ったわけではないが、ただ横暴な最強呪術師に対してため息を吐きたかったのだ
「…死者の蘇生なんですよ」
「…なんて?」
五条は七海の発言に耳を疑った
「そのサイトで販売されているのは死者の魂を呼び戻す新しい器、反魂人形と呼ばれるものです」
「またセンスの欠片もない冗談が出てきたな」
「十中八九インチキでしょう…ただ」
「いや、分かってるからいい。たとえ十中八九、九割九部がインチキ商売だとしても、万が一にも事実かもしれないのなら無視できない。そういうことだろ」
この世には考えるまでもない真実がそれなりにある
夜が明ければ朝が来るとか、氷は冷たいとか、リンゴが木から落ちるとか笑ってしまうくらい単純なルールが確かにあるから世界は成り立っているし、逆を言えばコレらが覆れば世界は成り立たない
そんな真実の一つに時間の不可逆性がある。時間は過去へは戻らない。その最も分かりやすい事象は死でなくてはならないということ
「僕に知られたくないわけだ。確実に宿儺の器を葬りたがっている連中としては」
「ご理解頂けたようで何よりです」
「ナメられたもんだな。僕がそんなものアテにしたがると思ってるのかね。そんなのアテにするよりすみれのチカラを使った方がずっと現実的だよ」
「一パーセント以外の可能性すらも恐れ、潰す。だから権力者は権力者として君臨し続けるんですよ」
「百パーセントインチキだろ、そんなことがホイホイできたりしたら」
「「世界はとっくに終わってる」」
五条と七海は口を揃えた
死人は蘇らない。蘇らないから、人は過去を諦められる。蘇らないから、人はせめて正しい死を求める。人は…だ。
「もっとも今回の商売対象は赤子に限定されているので、可能性など有って無いようなものですが」
「赤子ね〜。なんだってまた」
「さぁ。客層がそう限定されているんです。そこまで含めて調べるのが私の仕事です」
「死者蘇生自体が出来もしない眉唾もんだろ。某カードゲームじゃあるまいし。僕のターン!とか?」
「だからといって、調べないわけにもいかないんですよ。それが仕事というものですから」
パリパリと七海と会話をしながら五条は残り少なくなったソフトクリームのコーンを食べる。時折すみれの口元にコーンを近づけると小さく口を開けて食べるので食べさせていたが、首を振って拒否をしたので流石にお腹いっぱいになったのだろう
最後の一口を放り込み親指についたクリームをペロリと舐めた五条は七海に質問を投げかけた
「あ、そうだ。七海、サラリーマンって呪術師よりクソだった?」
「自身の向き不向きを除けば五十歩百歩ですね」
「呪われてるね、この社会」
「救いがありませんね、その表現は」
「で、七海。その人形を売ってるの居場所は掴んでるんでしょ。どっち?」
「もう通り過ぎました。誰かさんが勝手に歩いていくので」
「え、僕のせい?」
「…アナタが居ない分サラリーマンの方がマシだった、とは思わせないでください」
「此処です」
「なるほど、地下街ね。すげ、天窓あるわ」
「コンビニ、本屋、図書館窓口、なんでもありますから
私達が探している人もいるでしょう」
「っつーか最初から地下潜れば良かったじゃん」
「人の話を聞かずにじゃがバター食べ始めた人がいたので」
「マジか、見つけたら注意しておく」
「アナタのことですよ。
というかすみれさん、どうしたんですか?顔色が…」
「んー、なぁんかすみれと相性悪いみたいだね。
この場所なのか人形師なのかわかんないけど」