北海道任務-後編-
「呪いを祓うよりキツいよね、人の未練を掃うってのはさ」
五条がそう呟くほどの、涙と嗚咽を持って件の人形は回収され任務は完遂された
力付くの任務では心の傷は癒えなくなる。あの母親が自らの意思で子を手放すまで待つ必要があった
「この子に触らないで!」
「へぇ…そんなにそれが大事なの?足元で泣き叫んでる子より?」
「当たり前です!この子だって私がお腹を痛めて…」
「…購入したんですよね?」
「…え?…この子は本当に…」
「そうじゃないことは取引をしたアナタ自身がよく分かっているのではないですか?」
「うっ…」
「それに…秋人くんは分かっているようですよ。自分の母親が得体のしれない何かに心を奪われようとしていることを」
「……」
「真実の形は人それぞれ違います。アナタにとっての選びたい真実が子どもを一人も喪わなかった今ならばとやかく言う筋合いはありませんが…アナタを心配する子どもが生きている今から目を背けていることは事実なはずです」
「七海ぃ、手提げ鞄に入れるにはちょっと重いよ」
「適当に捨てていくわけにもいかないでしょう。それに大事な手がかりですから。人形に込められた呪力と見比べれば微かな残穢だけでも大本を辿れます」
「まぁね。こいつを売った人形師も一応隠すつもりはあったみたいだけど、モグリだな。雑」
「まったくです」
程なくして元凶の根城は見つかった
広いエリアから枝分かれをして、とあるビルの地下フロアへ通じる道。地上階へ続く階段の裏に入り組んだジグザグの路地
立地の悪さから真っ当な商売をするには向かないその場所はやましい商売の拠点としては適した場所だった
帳と同じ原理の術式で、一応人目を避けているのがわかった
「はぁ…こんなとこにすみれを連れてくるつもりはなかったんだけどなぁ…。どうしよう」
「先に上に戻って頂いても結構ですよ」
「そうなんだけどねぇ。めんどくさいからさっさと潰しちゃおっかな」
そういうと五条は片足を上げると扉を蹴破った
バキバキと派手な音を立てて埃が舞った
「ゲッホ!ゴッホ!あ "〜きったねぇな」
「な、なんだ。キサマらは…」
「客に見えるなら眼科行けよ。三下」
「呪術師ですよ、アナタと違って真っ当な」
「呪術師…そうか!キサマらも呪術師か!」
「はぁ?もってなに?まさか自分を呪術師としてカウントしてんの?ありえねぇ…」
「お願いですから、下手な抵抗はしないでくださいね。力加減をするのも疲れるので」
七海はそういうと背負ったホルスターから鉈を取り出し、即座に戦闘行動に移れる構えを取った
その様子を横目に五条は抱き上げていたすみれをその場に下ろした
「さとる?」
「ちょっと埃っぽいけど、ゴメンね。すみれ、帳を自分に下ろすんだ、出来るでしょ?それで僕がいいよって言うまで少しの間、目を瞑ってて」
五条に言われてすみれはコクンと頷くと小さな手で印を組み詠唱を唱えた
「やみよりいでてやみよりくろく、そのけがれをみそぎはらえ」
すみれが詠唱を唱え終えるとすみれ特有の白い帳がすみれを包み込むように下りた
「上出来。七海、ソッコーで片付けろ」
「言われなくても。そろそろ四時を回ります。出張先といえど時間外労働はしたくありません」
五条と七海はすみれを呪詛師から隠すようにすみれの前に並んで立つ
するとあろうことかその呪詛師は五条や七海に襲いかかることはなく情けない声を上げながら助けを求め七海の足元に縋り付いた
「た、助けてくれ!」
「七海」
「ええ、戯れに人々を呪っていたと思いましたが、まさか呪われている側のようですね」
七海に縋り付いた男を五条と七海は冷たい目で見下ろした
五条と七海の視線に曝された男はブルブルと身体を震わせた瞬間、衣服がビリビリと派手な音を立てて破れた下から異形の腕が鞭のごとく飛び出して二人に襲いかかった
七海は咄嗟にその腕を避けようとしたが後ろに控えるすみれを思い出して襲いかかってきた腕を反射的に切り落とした
切り落とされたはずの腕はシュルシュルと音を立てて男の元へ戻っていく
その人形師の身体をよく見ると人と人形が合わさり、首と左腕は辛うじて生身の人間の保ってはいるがそれ以外の部位は見るに耐えない
そして男の身体を離すまいと心臓に噛みつく人形の頭、これが件の呪物の正体だろう
「た、たのむ!タスケてクレ!コイツがハナレないんだっ!」
「なるほどね。親に渡す呪骸の作成に生き返らせたいやつの皮を使ったのなら残りの肉はどうしたのかと思っていたけど…食われ続ける己の身体の代わりにしていたのか」
「た、タスケて、くれナイのか…」
「どう考えても無理でしょ。自分でも分かっていたんじゃないの」
「これほど状況が進行していなければ家入さんならば切除できたかもしれませんが…」
七海は再度、手にした鉈を男へ向ける。サラリーマンを辞め呪術師を選んだ者とて七海には振り下ろすべき刃があるのだ
「やっぱりすみれに見せるものじゃないね」
そういうと五条はすみれの元に戻りすみれに声をかける
「すみれ、すみれ」
「さとる?終わった?」
「まだ。だから目は開けないでね」
五条はすみれを包む白いトバリに軽く触れる。パチっと軽い音が響くが五条は気にせずすみれを抱き上げた
するとすみれを包むトバリが徐々に五条にも伝線していき、やがて五条とすみれの両者を包み込んだ
五条は七海を背に一言声をかける
「んじゃ、僕達は先に出てるよ」
「ええ」
「た、タスケてクレるんじャ…ナイのカ」
「他者へ呪いを振りまいてしまったアナタはすでに呪いそのものです。…大人ならば責任を負いなさい」
七海の術式によって7対3で袈裟懸けに切られた人形師の身体はうまく生身の人間の部位と人形に分かれた。どちらがどちらの比率なのかはわかりきっているだろう。
最後に人形から切り離された人間の部分。男は最後に人間として死ぬのことが出来ていればいいと七海は人知れず思った
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人形師のアジトから地上へ向かうとそこには五条とすみれが七海の帰りを待っていた
「おつかれぇ〜七海」
「おかえり、ななみん」
「アナタがやれば一瞬で終わったのでは?」
「んー、僕が赫で吹っ飛ばしてもいいけど、人間として葬るなら僕より七海のが向いてると思ったんだよね」
「向きたくありませんよ、こんな仕事」
「とりあえず帳だけ下ろしてあとの処理は任せよう。さすがに死体の処理は手に余る」
「今回結局アナタ、何かしましたっけ?」
「さぁ?」
七海は深いため息をついた
「さて、銭湯いこう。銭湯
こんなホコリまみれヤダ」
「アナタの服は黒いので目立ちますね」
「すみれの可愛い服も台無し」
「ななみん、けがしてる」
「かすり傷ですよ」
「でもお風呂入るとき痛いから」
「え…すみれ治せるの」
「しょーこが教えてくれた」
「ウソだろ、あれで分かったの」
「あれとは」
「「ひゅーんひょい」」