ママ、あのね!

先ほど買ってきた食材や備品を娘と一緒に片付けていく。俺の隣であおいが袋からガサガサと取り出した中に諸伏が購入していたさきいかがあった。

「ひーくん、せっかくかったのにいかちゃんわすれてる・・・くさっちゃうかな」

「そんなすぐには腐んねーよ。パパとハギの二人でで食うから安心しな」

さきいかの袋を俺に突き出して、これはどうするんだという娘に、俺は萩原と食うから大丈夫だと言った。

「けんちゃんとたべるの?」

「ああ、今日はアイツも呼ぶからな」

「じゃあ、あおいがけんちゃんおむかえにいってもいい?」

「お、じゃあ頼んだぜ」

「うん!」

娘の言うけんちゃんとはこれまた俺の同期で幼馴染の萩原研二という男だ。あいつは俺や降谷、諸伏と同じで一応俳優だが、わけあって今は療養中である。

れっきとした成人した野郎だから放っておいてもいいんだが、本当に何もしないのである。生存確認リハビリも兼ねてたまに呼び出している。

今日はあおいがハギを迎えに行くらしい。年端もいかない女の子を一人で出歩かせてもいいものだろうかと思うのだが、何を隠そう萩原の家は松田家の隣だったりする。その距離わずか10メートル。あっという間に着く。

そのため、急な仕事が入ってしまい、あおいの預け先に困った時は萩原の家に連れて行く。安心安全完全無料の萩原託児所だ。

「あおい、今、持っているの片付けたらママにただいまって言ってこいよ」

「うん!」

あおいは持っていた最後のお菓子の大袋をお菓子スペースにしまうとパタパタとリビングにかけていく。

そのあとを追いかけるように俺もリビングへと向かう。一足先にリビングについていたすみれは飾ってある写真立てにそっと触れてママ、ただいまとつぶやいていた。

俺も同じようにただいまと言うと胸ポケットにしまっていたサングラスを取り出して写真立ての前に置く。するとすぐに娘は今日あったことを此処にはいない母親に一生懸命伝えるために言葉を選んで話し始めた。

これは出かけた後や一日の終わりの恒例行事なので俺はそっとその場を離れた。女同士の話もあるだろうし、何より俺は娘が寝付いたあとにいくらでも彼女に話かけることができるからだ。

「あのね、ママ!きょうね、れーくんのところでね………よ!それから、ひーくんにもあったの!ママはひーくんしってる?あとね!」

まあ、この通りあおいの元気な声はリビングから少し離れているキッチンにも届ている。時折トントンと飛び跳ねる音も聞こえるのでどうやら今日のあおいはかなり興奮してるらしい。

そんな娘の様子に俺はふっと笑いをこぼしながら風呂のボタンを押し、今日の夕飯の支度を始める。

今日はオムライスにでもするかなと考え、チキンライスを作る。チキンライスの中にはあおいに気づかれないようにピーマンやニンジンをみじん切りにして混ぜる。

子供らしく野菜全般が苦手なあおいだがこうして小さくすれば意外と気づかずにパクパクと食べることが多い。これも最近学んだことだ。

それからしばらくして風呂が沸いたとう軽快なメロディーが聞こえててくるが一向に娘がリビングから戻って来る気配がない。

「今日は盛りだくさんだったからな。話すこともいっぱいあるか」

下ごしらえを終わらせたあと換気扇の下に行き、タバコに火をつける。その煙はすぐに換気扇に吸われていく。そしてタバコを咥え吸った煙を吐き出すと未だに止まる様子を見せない娘を呼んだ。

ママ、あのね!
「あおいー、そろそろ風呂入れー」
「パパ!まだおはなしちゅう!」
「続きは風呂出てからにしろー」

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