お隣さんの正体
呼出音が鳴り続けても一向に出ない隣人に苛立ち軽く舌打ちをする。そしてやっと電話口に出たそいつの声はいかにも今まで寝ていましたという声色だった。
「…ふぁい?」
「出るのが遅ぇんだよ、バカ」
「あー、陣平ちゃん?なに?もうそんな時間?」
「あおいが行ったから準備しておけよ」
電話口の相手は少し前に説明した萩原研二という男だ。こいつは最近撮影したドラマのアクションシーンで少々やらかして療養中。
まぁ大怪我ってわけでもねぇから少ししたらケロッとした顔で復帰でしてるんだろうなと思う。
爆発物を扱うそのシーンで顔はフルフェイスのヘルメットで見えないから萩原本人でなくても大丈夫だからスタントを使うべきだとマネージャーや監督に言われたのに俺のかっこいい姿を見てよなんてほざいていざやらせてみたらまぁご推察の通り。バカなやつだ。
ーーピンポンピンポンピンポーンーー
「無事に着いたみたいだな」
「あー、そうみたい」
「なんで、シカトしてんだ。出ろよ」
ーーピンポーンーー
「まだ…寝ていたい」
「は?」
「てかさ、あおいちゃん鳴らしすぎじゃない?ピンポン」
萩原の部屋の前にたどり着いたあおいがコイツが出てくるのを今か今かと待っているというのにコイツはまだ寝ていたい…だと?
ーーロックを解除しましたーー
「え?噓、あおいちゃん、なんで俺ん家のキー持ってるの」
「なんでって、お前がそうやってなかなか出て行かねーだろうなと思って俺が渡した」
「えーーーー、それ普通に犯罪じゃない?」
「俺にキー預けている時点で犯罪もクソもないだろうが。それに家の前で待たされている間にそれこそあおいが攫われでもしたらどうすんだ」
「そんなに心配なら来させなきゃいいのに、それに
ぶっちゃけ俺たちのフロアは専用キーないと上がって来れないじゃん」
「あおいが行きたそうにしてたんだ、仕方ねぇだろ。俺だって年頃の娘を野郎の家なんかに行かせたくねぇよ」
未だにグダグダとベッドの上でだらけている萩原にいつ伝家の宝刀飯抜きを振り下ろそうかと考える。
「けんちゃーん、おきろー」
ペタペタと廊下を歩いてきた娘が萩原のいる寝室にたどり着いたようで小さくコンコンとノックの音が聞こえカチャリとドアノブを捻る音が電話越しに聞こえた。
「けんちゃーん、ごはんだよ。パパもまってるよ」
あおいが萩原に声をかけても反応を見せない。と、いうことは萩原の野郎…寝たふりでもするつもりか。
先ほどまで俺と話していたからスマホは通話中のまま。わざとらしい萩原の寝息まで聞こえてくる始末。そこで俺はスマホを通して娘に声をかけた。
「あー、あおい?」
「??パパ?」
家にいるはずの俺の声が聞こえるのを不思議に思っているんだろうなと考えて俺はクスっと笑って娘に声をかけた。
「萩原はいたか?」
「けんちゃんね、おねんねしてる」
「よし、あおい蹴り飛ばせ。キックだ」
「けんちゃーん、おっきしないとパパがおこだよー」