晩酌とおやすみ
夜ごはんを食べたあと、あおいは手慣れた手つきでリビングに置かれているテレビにBlu-rayのディスクを突っ込みお気に入りのネコのアニメを見始めた。
そんな娘を視界に入れながら俺は夕飯に使った皿やコップなど次々とを洗っていく。
「こうやってあおいちゃんにご飯食べさせたり、皿とか洗ってる陣平ちゃんを見るとさ、ちゃんとパパやってんだなぁって思うよね」
「は?」
「陣平ちゃんって手先は器用だけどさ、作るっていうよりバラす専門だったじゃん」
「いつの話をしてんだよ、おめぇは」
軽口を叩く萩原に片付けを終えた俺は冷蔵庫から2本の缶ビールを取り出すとその1本を萩原の目の前にコトンと置く。
リビングのテレビに目を向ければアニメはエンドロールが流れていて食い入るように見つめていた娘に声をかけた。
「あおい、眠くならないうちに歯、磨けよ」
俺の声に反応して、テレビから視線を外して俺を見るあおいは小さな声でむしば…とつぶやいた。
「むし歯になったら、痛ぇぞ?」
「いたいの、や…」
「じゃあ磨けるな?」
「ん」
座っていたソファからぴょんっと下りたあおいはパタパタと洗面所の方へ駆けていく。
そんな娘を見ながら俺は手にしていた缶ビールのプルタブに指をひっかける。カシュッと間抜けな音を立てて少しの泡が飲み口から顔を出す。
「あれ、珍しい。あおいちゃんまだ寝てないのにもう飲み始めるの?」
「たまには…な」
泡が零れないように口をつけて一口飲み、テーブルの上に缶ビールを置いた。
「んじゃ、俺も頂きますかね」
俺に倣った萩原も手元の缶ビールを開けて一口含む。
「で?陣平ちゃん、何があった?」
「別になんでもねぇーよ」
「陣平ちゃん、嘘が下手だねー。バレないとでも思った?俺たち何年の付き合いだと思ってるの」
「ほんとになんでもねぇ」
「陣平ちゃんが言いたくないなら無理には聞かないよ。ただそのせいであおいちゃんが泣いたりするなら無理にでも吐かせるからな?俺たち大人の夜は長いんだから」
そういうと萩原は缶ビールを再び手に取り俺の目の前に差し出す。俺も缶ビールを手に取ると缶ビール同士をコツンと合わせた。
「「乾杯」」
ゴクゴクとビールを飲んでいるとピンク色の小さい歯ブラシを持った娘がテコテコと近寄ってくる。口の周りがすでに濡れているので自分で少し磨いてきたのだろう。
「パパ、しあげして!」
「口、大きく開けな」
「あー」
娘から歯ブラシを受け取るとあおいの口を開けさせ、磨きが足りなさそうな奥歯や歯の裏側を優しく磨いてやる。
基本的に表面しか磨かねぇからな。ちゃちゃっと磨き上げると終わったぞと娘に声をかけて歯ブラシを返す。
「ありあとー」
磨いたことで唾液が口の中に溜まって舌ったらずにお礼をいうあおいは再び洗面所に駆けて行った。
口の中を綺麗にしてリビングに戻ってきたあおいはソファに置いてあるもちもちのクッションを抱きかかえて俺のもとに駆け寄ってくる。
「そろそろ寝るか」
「パパ、いっしょ?」
首を傾げながら尋ねてくる娘に椅子に座ってビールを飲んでいた萩原が言った。
「ごめんよ、あおいちゃん。今日は陣平ちゃん、俺に貸して欲しいんだけどいい?」
「俺はモノじゃねーよ」
「うん、いいよ。あおい、ひとりでねむれるもん」
俺の膝によじ登ろうとしていたあおいはそのまま回れ右をして大人しく寝室へ繋がる扉の方へ向かっていく。その姿を萩原と二人で見守る。
寝室のドアノブに手をかけてカチャリと音を立てて開けた空間に娘の姿が消えていく。そしてパタンとドアが閉まった。
しかし間を置かずにドアが開きひょこっとあおいが顔を出す。
「どうした?トイレか?」
「んーん。おといれははみがきのときにいったよ」
「パパ、けんちゃん、おやすみ」
「おやすみ〜。あおいちゃん」
「おやすみ、あおい」
「ところでさ、陣平ちゃん。今日泊っていい?」
「ダメだ、帰れ。隣だろうが」
「ケチ」