風見裕也の災難-序章-
突然ですが、自己紹介をさせてください。
俺の名前は風見裕也といいます。
職業は地方公務員、警視庁に務めております。
いわゆる警察官というやつなのですが…現在の俺の仕事はある人物の護衛兼マメネジメント業務です。
そのある人物というのが、人気俳優【安室透】本名は降谷零さんという男性です。
降谷さんはいつも私にこういうのです。
「僕に護衛は必要はない。こう見えても鍛えている。スケジュールだって自分で管理できるからお前の心配は無用だよ」
降谷さん、あなたが鍛えているのは知っています。数少ない休日や仕事と仕事の合間にボクシングをしていることも知っています。
しかし一言だけ言わせて頂きたい。
降谷さん、貴方のスケジュールは明らかに過密です。
俺も警察官とマネージャーという二足の草鞋をしていますが、本業1本で仕事をしている降谷さんの方がとても忙しそうに見えるのです。
たまにある休みの日でさえ喫茶店で働いていたりするのだから本当に働きすぎであると声を大にして言いたいです。
そして時折、降谷さんは俺の目を盗んでどこかへ行方を眩ますことがあります。あの人に限って何かの事件に巻き込まれて怪我をする…なんてことはほぼありえないし、万が一巻き込まていたとしても降谷さん自身解決してしまうはずなので心配はしていないのですが。
現役の警察官よりも強い俳優って…チートすぎませんかね。
というか、もし怪我の一つでも降谷さんに負わせてしまったら俺の首が飛ぶ。
長々と語ってしまいましたが、何を言いたいのかというとお察しの通りです。
降谷さんを見失いました。
「まったく、あの人はいつもいつもどうしてこうもすぐに私を撒くんですか」
毎回、毎回撒かれる俺もどうかと思うのだが…ほんとにそろそろ飛ばされるかもしれないな…。
それにしても彼の逃避のスキルは並大抵のものではない。
それは俳優という人気職についているが故に身につけざるを得なかったのかもしれませんが、彼に限らず降谷さんの同期であるK5と呼ばれる彼らは揃いも揃って身体能力や顔面偏差値が振り切っている。
いつか彼らはアイドル活動でも始めるのではないのかと待望されていたりする。本人たちはやる気は一切ないらしいが。
「はあ…」
俺は溜息をひとつこぼし、ポケットからスマホを取り出すと発信履歴の一番上にある降谷さんの名前をタップしようとしたときだった。
スマホを注視しすぎたせいもあり俺のすぐそばに小さな子ども、それも女の子がいたことに気が付かなかった。
トンっと脚に何かがぶつかる感覚がして、初めて俺は自分がしでかした過ちを理解した。視線を下に向ければペタンと地面に座り込んでいる女の子。
「(しまった、また降谷さんにどやされてしまう)
すまない、怪我はないだろうか?私がよそ見をしていたばかりに…」
座り込んでしまっている女の子に俺は手を差し出した。しかしその女の子は俺の手を取ることはせずに自分の力で立ち上がるとスカートをパンパンと叩く。
俺の手は虚しく目的を見失ってしまったため、そっとひっこめた。
「(大した子だ。泣きもしないし、見知らぬ大人の手も取らない。よほど親御さんがしっかりされているんだな)」
女の子の行動に感心していると、女の子が口を開いた。
「ううん、あおいもよそみしていたからおじさんにぶつかっちゃったの。ごめんなさい」
ペコリと頭をさげる女の子におじさんと呼ばれたのはショックだったが、まあこのくらいの小さな女の子にとっては俺もおじさんか、と納得してしまう自分が悲しくなった。
そして女の子に倣うように俺も慌てて頭を下げた。こんな小さな女の子に頭を下げさせて自分だけが仁王立ちしているところを万が一にでも降谷さんに見られでもしたら今度こそ俺は干される。
「頭をあげてくれないか。先ほども言ったが俺もよそ見をしていたんだ。本当にすまなかった」
「じゃあ、おたがいさまだね」
俺の言葉を聞いて、女の子は顔をあげるとニコッと笑った。その顔はどことなく降谷さんにも似ているし同期の彼にとてもよく似ている気がしたのは気のせいであってほしい。
「ところお嬢さんはなぜ、お一人で?」
「しらないひととはおはなしちゃいけませんって
パパいってた」
「(すでに言葉を交わしているのだが…)
えっと…風見です。風見裕也といいます。」
「かざみゆーや?ゆーやおじちゃんだね。
あおいはね、まつだあおい!」
「ま、つだ…?」