風見裕也の災難-予感-
降谷さんを見つけることに躍起になっていた俺と不運にもぶつかってしまった女の子は、自分の名前をまつだあおいだと名乗った。
俺の記憶に存在する松田の姓を持つ知り合いはただ一人。降谷さんの同期でK5メンバーが一人。
松田陣平
彼はK5の中で唯一の既婚者でかつ娘がいることを公表している。
お嬢さんの存在は降谷さんから聞いただけなので詳しくは知らないが、確かこのくらいの年齢だった気がする。
それにどことなく似ているのだ。このお嬢さんはその松田陣平さんに。
降谷さんのプライベート用のスマホが鳴ることは珍しい。
以前は月に1回鳴るか鳴らないかといったそのスマホは、最近になってよく鳴るようになった。
気になった俺は降谷さんに聞いたことがある。降谷さんのプライベートを暴きたいとかそういうわけではないのだが、電話に出た降谷さんはその凛々しい顔を緩ませていたのだから。
「あの、降谷さん。先ほどの電話のお相手は…」
「なんだ、風見。そんなに僕の電話の相手が気になるのか?」
「いえ、その降谷さんに限ってはないとは思っておりますが万が一なにかスキャンダル的なものになってはマズいと思っておりまして」
「はは!この僕が?すっぱ抜かれるって?安室透!結婚へ!極秘に育んだ愛!年の差婚の真相なーんてな」
「年の差婚?!」
その言葉を聞いて俺の目ん玉は飛び出るかと思いました。
「何も心配はいらないぞ。風見。電話の相手は松田の子どもだ。松田があおいちゃんに子ども用のスマホを買い与えたらしくてな。時折かけてくるんだ」
「あおいさんですか」
「そう、松田あおいちゃん。いつか会うことが会ったら紹介くらいはしてやるさ」
「ゆうやおじちゃんはここでなにしてたの?」
松田さんのご息女(仮)さまが俺の方を見てここで何をしていたのかと問うてきた。はは、まさか担当している俳優に撒かれたなんて情けないことは口が裂けても言えないのだが。
「人を探していたんだ」
「ひと?ゆうやおじちゃんはまいごなの?」
目の前の少女はコテンと首を傾げながらその大きな瞳を俺に向けて聞いてくる。
「いや、迷子なのは俺が今探している人で…」
「あおいもしってるひと?いっしょにさがしてあげる!」
「あ、いえ。キミに迷惑をかけるわけにはいかない。心遣い感謝します。ところでキミの方こそこんなところで一人なにをしていたんですか?」
そう、この少女はこんなところで一人何をしていたのだろうか。仮にこの少女が本当に降谷さんが以前話していた松田さんの娘さんであれば彼は相当、娘に甘く過保護だと聞いている。
一人でうろついているなどありえない。降谷さんは松田さんのことを過保護だと笑っていたが俺から言わせれば降谷さんも松田さんの娘さんに対してはかなりの過保護ぶりを発揮している。
「ん?あおいはね、パパとれーくんまってるの」
「え?」
「ん?」
…今、この少女はなんと言った?パパとれーくん。確かに俺のこの耳はその言葉を拾った。
だがまた確信を得ていないので仕方がない。俺の憶測が正しければ、この少女は間違いなく松田さんの娘さんだ。疑念を払拭するためにもう少しこの少女に聞いてみる必要がありそうだ。
「少々、聞いてもいいだろうか。キミの言うれーくんとはご兄弟かい?」
「れーくんはれーくん。それいじょうはだれにもおしえちゃいけないんだって。パパとれーくんにいわれているからゆうやおじちゃんでもおしえてあげない」
短い腕を胸の前でクロスしばってんを作っている。
さて、どうしたものか。
これ以上しつこく聞いてしまったら俺は傍から見たら小さな女の子に声をかけている怪しい男なのではないのだろうか。マズイ、誤解されて通報でもされた日には己が警察人生に終止符を打つことになってしまう。
せめて親子に見えていたらいいのだが…。俺が一人考えをめぐらせているその時、目の前の少女が自身のスマホを取り出して連絡を取っていることに気が付かなかった。
「パパ?」
「あおい!今どこだ?何が見える?!」
「おじちゃんといっしょだよ」
「は?今すぐそいつから離れるんだ!いいな?!」
「だいじょうぶだよ、おじちゃんいいひとだもん」
「ダメだ!いいか絶対だぞ!…降谷!」