降谷零と安室透

降谷特製のお子様サンドイッチプレートをペロリと食べ、デザートととして出された苺ミニパフェをパクパクと食べている娘を見ていると降谷がエプロンで濡れた手を拭きながら俺たちの方へやってきた。

「おい、お前仕事中だろう。あっちいけ」

シッシッと手で追い払う動作をしてみたが効果はなく降谷は俺とあおいが座る正面の座席に差も当然のように腰を下ろした。

「今から休憩なんだ。別にいいだろう。僕がどこで休もうと僕の自由さ」

「お前、ほんと客がいないからって素出しすぎじゃねぇ?」

「客が来たら戻る。心配はいらない」

いつの間に持ってきたのだろうかコーヒーを飲みながら、さもどうでもいいという風に言うコイツに若干の苛立ちを覚えながらも俺も食後のコーヒーを口に含んだ。

さっきも軽く説明したが、俺の正面に座っているコイツの名前は降谷零。

俳優養成所時代の同期で芸名は安室透。

なんでコイツは芸名なのかって?俺が知るかよ。事務所に所属して仕事を始めたらちゃっかり芸名なんて使ってるんだからよ。

安室透から共演のオファーが来ていますって言われてなんで新人の俺を指名するんだ?てか安室透って誰だよって思いながらせっかく来た仕事を無下にするわけにはいかないから当日現場に行ったら安室透が降谷だったってオチ。

安室透の宣材見せろって言ったのに頑なに拒否されてマジでなんだコイツって思ったが現場で会った降谷がいたずらが成功したクソガキみたいにニヤついていてぶん殴ろうかと思った。

当時からホントに成人男性とは思えないベビーフェイスの持ち主で物腰柔らかな態度。顔の造形は29歳になった今でも大して変わっていない。

そのおかげで超大型新人として世に出た降谷は世の女を面白いくらいにホイホイ落としていった。テレビでの安室は作られたものだ。

降谷の一人称は安室と同じく僕だが、その自信はどっからくるんだってくらいの自信家。安室透という優男の表面しかしか見てないやつらは降谷の本性をみたら幻滅でもすんのかなと思い降谷に視線を向けたら脛を蹴られた。

「いってぇな!なにすんだ!」

「なにかよからぬことでも考えているんだろうなと思って」

「パパ?どこかいたいの?」

急に声を上げた俺に驚いたのかビクンと跳ねあがったあおいがデザートのスプーンを口から出して心配そうに俺を見ている。

「大丈夫ですよ、#すみれちゃん#」

「おい」

大丈夫だと言おうとした俺の言葉に重ねるように言葉を発した降谷についいつもの調子で汚い言葉を口に出してしまいそうになったが娘の手前聞かせるわけにもいかず降谷に対するコノヤロウという言葉は飲み込むことになった。

「そっか」

「あおいちゃん、口にクリームがついてますよ。取ってあげますね」

そういうと降谷はテーブルに手をつけて身を乗り出しながら娘の口についているクリームを指でぬぐい取るとその指をペロっと舐めた。

そんな降谷の行動にハッとしてあおいは近くにあったおしぼりを手に取ると降谷の舐めた指をゴシゴシと拭き始めた。

かなり強い力で拭いているんだろう。すみれはまだ小さいからその辺の加減とかはまだわかんねぇだろうしと思っているとやはりそうらしい。

降谷の褐色の指がほんのり赤くなっているのを見てざまぁみろと思ったのは内緒だ。

「れーくん!ばっちいからめっ!」

「はは、すみません」

「…たく、いくらあおいが可愛いからって調子に乗んなよ」

「いいじゃないか。いずれあおいには僕のお嫁さんになって貰おうかな」

「は?ふざけんな。あおいはお前になんかやらねーよ!だいたいいくつ離れていると思ってんだ」

「知らないのか、松田。今は年の差婚というものもあるんだぞ」

「あおいはれーくんのおよめさん?」

「はい、なってくれますか?」

「うーん、どうしようかなー」

本気で考えだした娘に俺は内心ハラハラといしていたが正面からクスっと笑う声が聞こえて俺は理解した。

降谷は俺が慌てているところを見て楽しんでいる…と。

降谷を睨みつけるとカウンターからもう一人の店員が安室さーんと降谷を呼んでいる声が聞こえた。

「ほら、呼ばれてんぞ。あ・む・ろ・さん」

厭味ったらしく降谷をその名前で呼べば、降谷は舌打ち一つかまして席を立った。ナイスだ。安室を呼んでくれた名も知らぬ店員よ。

降谷零と安室透の違い
そんなもんねぇよ
どっちもあおいを狙ういけ好かない野郎だ
「さっさと仕事に戻れよ」
「言われなくても戻るよ。あおいちゃん考えておいて」

|

小説Top|Top