諸伏景光の思い
ポアロからの帰り道に偶然諸伏と遭遇した俺は降谷のバイトが終わるまで暇であろう諸伏を連れて近くのスーパーへやってきた。
「なぁ、俺ってもしかして足に使われた?」
「んなことねぇよ」
入口にあったかごを手に取り目の前に広がる野菜のコーナーに足を向け一つ一つ品定めを始めた俺に後ろからついてきた諸伏が不機嫌そうに言うので何食わぬ顔でNoだと答えた。
「パパ、きょうはおかしなんこ?」
そんな中俺のズボンをくいっと引っ張ったあおいの頭から帽子を取り額に張り付いている前髪を指で除けながら目線を合わせるようにしゃがんだ。
「そうだな、今日は3個だ」
「さん?」
小さな手のひらから指が三本立ち俺の目の前に差し出される。
「そうだ、3個だ。守れるか?」
「うん」
元気よくうなずいたあおいの頭をわしゃわしゃと撫でるとあおいはお菓子売り場へと向かうためにくるりと方向転換をして一人で歩きだしたので俺はあおいを止めた。
「っと、ちょい待て」
「???」
「あおい、スコッチも連れていけ」
俺の後ろに棒立ちしていた諸伏を差し出すと娘は一瞬不思議そうな顔したがすぐにコクンと頷いて片腕をめいっぱい諸伏に伸ばした。
「ひーくん!はい。おててだして!まいごになっちゃうよ!」
「え?え?」
「はーやーくー」
腕をブラブラと揺らして諸伏が手を取るのを今か今かと待っているあおいに未だに状況把握に時間がかかっている諸伏。
俺は諸伏の肩に手をポンと乗せ“あおいのこと頼んだわ”と耳打ちするとさっと離れた。
「…行こうか。あおいちゃん。俺、このスーパー初めてなんだ。色々おしえてくれる?」
「うん、まかせて!」
諸伏はあおいの手をそっと握った。
思っていた以上にあおいの手は小さく、力を入れ間違えたらすぐに壊れてしまいそうだと思った。
同期の松田が実は誰よりも早くに結婚していて、かつ子供がいると聞いた時は本当に驚いた。しかも男手一つで育てていると聞いた時も。
松田の嫁さんが松田が独りにならないためにと残して逝ったのかと。出会った当初は暗い顔をしていることが多かったが次第に笑顔が戻ってきて、ああ、松田の支えになっていたのはこの子だったんだなと改めて思った。
(あおいちゃんが、松田の嫁さんが遺した唯一無二の宝物か・・・。この小さなお姫様を守る騎士に俺も立候補しようかな。ゼロは当たり前のように参戦してそうだし。松田の嫁さんはゼロの・・・)
そんなことをぼんやりと考えながらあおいちゃんと繋いだ手に少しだけ力を入れて握るとあおいちゃんは不思議そうに俺を見上げて笑顔をみせてくれた。
そして俺とあおいちゃんは目的地であるお菓子売り場へとたどり着いたのだった。
「ひーくん!どれがいい?」
「え?あおいちゃん、選ばないの?」
「みっつえらべるからひとつはひーくんにあげるっ!」
「もうひとつはパパのぶんにするんだあ」
ニコニコと笑いながらどれにしようかなあと吟味しているすみれちゃんに自然と頬が緩んだ