秘密/r





月の光だけが差し込む、静かな寝室。 お気に入りの寝心地のいいベッドの上で、私はシーツを固く握りしめていた。
(……眠れない)
体は疲れているはずなのに、妙に目が冴えて、体の奥が疼くように熱い。 原因はわかっている。 数時間前、リビングで薬湯を飲んでいた時、セレスに「顔色が悪いな。また診察が必要か?」と揶揄われ、耳元にキスを落とされた。 あの時の、彼の妖艶な瞳と、低い声。 そして、私のすべてを知り尽くしている彼の手の感触。
(……セレス……)
彼は今、隣の書斎で医学書を読んでいる。 扉一枚隔てた向こうに、彼がいる。 行けばいい。 彼の部屋の扉を叩いて、「触ってほしい」と、ただ一言、そう言えばいいのだ。 彼はきっと、意地悪く笑いながらも、私が望むすべてを与えてくれるだろう。
(……私から、おねだりするなんて……!)
プライドが邪魔をする。 あの男に「おねだり」なんてしたら、絶対に揶揄われる。 「ほう、我慢できなくなったか? 可愛い小鳥だ」なんて、手のひらで転がされるのが目に見えている。 それは、悔しい。 彼にいじめられるのは嫌いじゃないけれど、自分から負けを認めるような真似はしたくなかった。
(……っ) けれど、体は正直だ。 一度意識してしまった熱は、簡単には引いてくれない。 彼に触れられたい。 あの意地悪な指で、焦らされて、恥ずかしいことをさせられて、めちゃくちゃにされたい。
(……だめ。考えちゃだめ……)
そう思えば思うほど、あの夜の記憶が鮮明に蘇る。 彼に暴かれ、支配された、あの背徳的な快感。
「……ん……っ」
私はたまらず、枕に顔をうずめた。 シーツの中で、自分の手がゆっくりと動く。
(……セレスじゃない。……私、一人で……)
その行為が、ひどく恥ずかしく、いけないことのように思えた。
震える指が、寝間着の合わせ目から、そっと滑り込む。 まずは、彼が揶揄うように弄んだ、胸の膨らみに触れた。
「……ひぅ……っ」
自分で触れているだけなのに、まるで彼の指で触れられているかのように、体が敏感に反応する。
(……セレスなら、もっと……意地悪なのに)
彼がしたように、先端を指でねっとりと擦る。
「……ぁ……ん……っ」
声が漏れそうになり、慌てて枕を強く噛んだ。
指が、ゆっくりと下りていく。 お腹を通り過ぎ、下腹部の熱が集まる場所へ。 そこはもう、彼を思い出して、しっとりと濡れていた。 その事実に、さらに羞恥心が募る。
(……こんなに、欲しがってるみたい……)
指先が、その熱に触れる。 彼に散々「診察」され、快感を教え込まれた場所。
「……っ!」
そっと、一本。 彼に解された時を思い出しながら、自分の中へと指を差し入れた。
「……ん……っ、ふ……」
セレスの指とは違う、自分の冷たい指。 けれど、中は彼を求めるように熱く、すぐに受け入れてしまう。
(……だめ…セレスにしてほしいのに……セレスに、おねだりできないからって……)
悔しさと、欲求不満と、一人で慰めている背徳感で、頭がぐちゃぐちゃになる。 私はもう一本、指を増やし、彼がしてくれたように、内側をゆっくりとかき混ぜた。
「……ぁ……っ、ん……っ」
彼が「ここか?」と意地悪く笑いながら突いた、あの場所。 そこを、自分の指で、ぐ、と押してみる。
「―――――っ!!」
声にならない悲鳴が、喉の奥で弾けた。 体がビクン、ビクンと激しく痙攣する。 セレスに与えられる、あの激しい絶頂とは違う。 どこか物足りなくて、でも恥ずかしくてたまらない、一人きりの快感。
「……はぁ……っ、は……っ、……せれす……」
シーツを握りしめたまま、ぐったりと脱力する。 涙がじわりと滲んだ。 一人で達してしまった羞恥心と、それでも満たされきらない体の疼き。
(……ばかみたい。……結局、あの人のことばっかり考えて……)
私は、濡れた指をどうすることもできず、ただシーツに擦り付けた。
その時だった。
「――随分と、熱心だったな」
静寂を破り、書斎の扉が開く音と共に、聞き慣れた低い声が響いた。
「……え?」
凍り付いた私の視線の先。 月明かりを背にして、セレスが、いつもの妖艶な笑みを浮かべて、そこに立っていた。
「……いつ、から……?」
「さあ? 『セレスのがほしい』と、可愛い声が聞こえた気がしてな」
「〜〜〜〜〜っ!!」
顔から火が出る。 見られた。 一番見られたくない相手に、この、恥ずかしい行為のすべてを。
「……あ……、ちが……、これは……!」
「違う? 何がだ?」
彼はゆっくりとベッドに近づき、私が隠そうとする濡れた手首を掴んだ。
「……ほう。随分と濡らしたじゃないか」
「いやぁぁぁっ! 見ないで!!」
「今更だろう」
彼は私の手を引き寄せると、その指先に残った私の熱を、自らの舌で、ねっとりと舐め取った。
「……っ!!」
「……ふふ。甘いな」
「……や……! やめて……!」
「なぜ? ……続きが、欲しいんだろう?」
彼は私の抵抗を封じ込めると、ベッドに乗り上げ、私に覆いかぶさった。
「……一人でこそこそする悪い子には、お仕置きが必要だな」
「……っ!」
「おねだりもできない強情な小鳥は……」
彼の薄紫の瞳が、飢えたように私を射抜く。
「俺が鳴き方を、もう一度……徹底的に教えてやる」
もう、逃げ場はなかった。
「……っ、いや! ちがう、これは……っ!」
「違う? 何がだ?」
セレスは私に覆いかぶさったまま、その薄紫の瞳で、愉悦に歪む笑みを浮かべていた。 人生で、これほど恥ずかしい瞬間があっただろうか。 プライドも、負けん気も、すべてが打ち砕かれ、ただただ羞恥に顔が熱い。
「……っ、はなして! みないで!」
私が必死に身をよじって逃れようとしても、セレスは私の両手首を掴み、頭上でシーツに縫い付ける。 その力は絶対的で、逃げ場はない。
「無駄だ。……それとも」
彼は私の耳元に唇を寄せ、囁いた。 「見られたのが、そんなに興奮したか?」
「ちがう!!」
「そうか? だが、君の体は正直だ」
彼は私の手首を押さえていない方の手で、私がさっきまで慰めていた、濡れた指先に触れた。
「ひ……っ!」
「俺の代わりに、これを使ったのか?」
「……っ!」
「俺に触れられたいのを我慢して、一人で……こんな風に」
セレスは私の指を取り、その指先に残った私の熱を、私の目の前で、ねっとりと舌で舐め取った。
「……ん……。やはり甘いな」
「や……! やめて……! そんな……っ!」
「なぜ? 君が望んでいたんだろう?」
(最低だ。____この人は、私が一番恥ずかしいと思うことを、全部わかってやっている)
涙が、悔しさと屈辱と、そして背徳的な興奮で、じわりと滲む。
「……さて。『お仕置き』の時間だ」
セレスの指が、私の寝間着の合わせ目を、ゆっくりと開いていく。 さっきまで自分で触れていた、熱を持った肌が、冷たい夜気にさらされる。
「まずは、ここか?」
彼の指が、私の胸の膨らみを、ゆっくりと撫でた。
「……ぁ……っ!」
自分で触るのとは比べ物にならない、的確な刺激。
「自分で触るより、俺にされる方が、いいだろう?」
彼は私の反応を楽しみ、先端を指でわざとらしく弾いた。
「……っ、ん……! や……!」
「『いや』? ……声は、そう聞こえないが?」
彼の指は、私の抵抗を無視し、ゆっくりと下腹部へと降りていく。 そして、私がさっきまで指を入れていた、熱く濡れた場所へ。
「……ひ……っ!」
「……ほう。もうこんなに。よほど、我慢していたんだな」
彼は私の足を優しく押し開き、その中心に、そっと指を当てた。
「……っ、だめ……! さわら、ないで……!」
「なぜ? 君は、ここに触れてほしくて、一人で泣いていたんだろう?」
彼の指が、ゆっくりと、一本。 さっきまでの私の指の感触を上書きするように、私の中へと侵入する。
「……っ、あ……! ん……っ!」
セレスは私のこめかみにキスを落とし、囁く。
「……どうだ? やはり、俺の指の方がいいか?」
彼は私の返事など待たずに、指を二本に増やし、内側を執拗にかき回し始めた。
「……っ! あ……! だめ、そこ……っ、ぁ……!」
「ここか? それとも……ここか?」
彼が弱点を見つけては突くたびに、体がビクンと跳ね、声にならない喘ぎが漏れる。
「……もう……むり……っ、い……」
「まだだ」
まただ。 私が絶頂に達する寸前で、彼はぴたり、と指の動きを止めた。
「……え……?」
快感の頂点から突き落とされ、体が宙吊りにされたような苦しさに、涙目で彼を睨みつける。
「……っ、なんで……! いじわる……!」
「おねだりが、まだだな」
彼は意地悪く笑い、私の濡れた頬を舐めた。
「……っ」
「一人でできる強情な小鳥は、俺の助けなどいらないんだろう?」
「……最低。最悪だ…!」

(……でも、ほしい。この人の指じゃ足りない。全部、ほしい)
私が悔しさに唇を噛んでいると、セレスは「そうか。まだ足りないか」と呟いた。
「え……?」
彼は、私の中に差し入れた二本の指はそのままに、今度はその手の親指で、私の最も敏感な場所――その硬くなった先端を、ねっとりと、押し潰すように擦り始めた。
「―――――っ!! あ! あ! あ!」
声にならない悲鳴が上がる。 中をかき回される快感とは、比べ物にならないほどの鋭い刺激。 彼に教え込まれた、一番弱い場所。
「……っ、だめ! そこ、だめ……っ! さわら、ないで……!」
「なぜ? 君は、一人でここも弄っていたんだろう?」
「してな……っ! あ! んぐ……っ!」
嘘だ。さっきは怖くて触れなかった。 けれど、セレスは私の嘘などお見通しだ。
「ほう。なら、初めてか」
彼は親指で、執拗に、円を描くようにそこを弄ぶ。
「……こんなに硬くして。俺の指が、そんなに気持ちいいか?」
「……っ! あ……! や……! むり、むりぃぃっ!」
中からも、外からも。 二方向からの同時攻撃に、もう私の理性は限界だった。 恥ずかしさも、プライドも、何もかもが溶けていく。 ただ、この苦しいほどの快感から、早く楽にしてほしかった。
「せれす……っ! おねが……っ!」
「……なんだ?」
彼は動きを止めずに、意地悪く問いかける。
「……おねがいだから……っ、もう、やめて……っ、じゃなくて……!」
支離滅裂な懇願。
「……ふふ。どうしてほしいんだ? 言葉が足りないな」
彼はわざと、一番感じるところを、ぐり、と強く押した。
「あぁぁぁっ!!」
「言え。俺に、どうしてほしい?」
もう、無理だった。 私は泣きながら、彼に懇願した。
「……っ! あなたの、が……! あなたのがほしい……です……っ! はやく……!」
その言葉を聞いた瞬間。 セレスの妖艶な微笑みが消え、剥き出しの独占欲を宿した瞳が、私を射抜いた。
「……ああ、本当に」 彼の声が、熱で掠れる。
「君は、最高の小鳥だ」
彼は私の中から指を引き抜くと、その濡れた指を私の口元へと運ぶ。
「……?」
「これも、君が欲しがったものだ。味わえ」
「……ん……っ!?」
有無を言わささず、彼はその指を私の口に含ませた。 私の熱と、彼の指の匂い。その背徳的な行為に、また顔が熱くなる。
「望み通りだ」
彼はその隙に、自分の熱を、私の中へと押し当てた。
「だが、お仕置きはまだ終わらない」
彼は私の腰を掴むと、今度こそ、その熱のすべてを、私の中に一気に突き入れた。
「―――――っ!!」
一度目よりも深く、生々しく私を貫く熱。
「……っ、ぁ……!」
「……泣いても、喚いても、今夜はもう、逃がさない」
月明かりの下、二人の影が一つに重なり、激しい夜の第二幕が、静かに始まった。
「―――――っ!!」
一度目よりも深く、生々しく私を貫く熱。 さっきまで指で散々解されていたとはいえ、彼の存在感は圧倒的だ。 体が内側から押し広げられ、張り裂けそうな感覚に、私はシーツを固く握りしめた。
「……っ、ぁ……! せ、れす……っ!」
「……ああ」 彼は私の中にすべてを埋め込んだまま、ぴたりと動きを止めた。 私の首筋に顔をうずめ、まるで私の匂いを確かめるように、深く息を吸い込む。 「……ん……。やはり、直接繋がると、より甘いな」
「……っ!」
その言葉が、今自分たちが何をしているのかを嫌でも意識させ、顔から火が出る。
「……どうした? 強情な小鳥」 彼は私の耳元で、わざと意地悪く囁いた。
「一人でこそこそするより、俺にこうして……めちゃくちゃにされる方が、お好みなんだろう?」
「ちが……っ!」 「違わないさ」 彼は私の言葉を遮るように、ゆっくりと、ほんのわずかだけ腰を引いた。
「……ひぅ……っ!」 そして、今度は、さらに深く。 さっき指で散々弄んだ、私の最も弱い場所を、彼の熱が直接、抉(えぐ)るように突き上げた。
「―――――っ!! あ! あ! あ! だめ、そこ……っ!」
「ここか?」
彼は私の反応を楽しみ、的確に、その一点だけを狙って、ねっとりと腰を動かし始めた。
「……っ! ん……! んん……っ!」
「ふふ。……自分で弄っていた時より、いい声が出ているじゃないか」
「や……! あ……! せれす、の……いじわる……っ!」
「ああ。存分に味わえ」 彼は私の羞恥心を煽るように、わざと深く、強く衝き上げる。
「……っ! あ……! い……っちゃ、う……!」
「まだだ」
まただ。 私が絶頂に達する寸前で、彼はぴたり、と動きを止めた。
「……え……?」
「……なんで……っ、とめる、の……!」
苦しくて、涙目で彼を睨みつける。 「『お仕置き』と言っただろう?」 彼は私の体を貫いたまま、汗に濡れた私の頬を舐めた。
「……君が、俺に隠れて一人で慰めていた罰だ」
「……っ!」
「俺以外のもので感じようとした君には、俺の存在を、骨の髄まで刻み込まないとな」
彼はそう言うと、止めていた腰を、今度は一気に、激しく動かし始めた。 もう、焦らすような優しさはない。 ただ、貪るように、私のすべてを奪い尽くすような衝動が、私を貫く。
「あ! あ! あ! むり! むりぃぃっ!!」
「……っ!」
私の体が大きく跳ね、意識が白く染め上がったのと、セレスが私の奥深くに、その熱を解き放ったのは、ほぼ同時だった。
「……はぁ……っ、は……っ」
激しい嵐が過ぎ去った後の静寂。 月明かりだけが、荒れたシーツを照らしている。
セレスは私の中にすべてを注ぎ込んだまま、体重を預けるように覆いかぶさってくる。
「……重……」
「……静かに。……少し、このままでいさせろ」 私の首筋に顔をうずめたまま、彼が掠れた声で呟く。
「……どうだ、小鳥」
彼は私の耳元で、確信犯のように囁いた。
「もう、一人でなんて、できなくなっただろう?」
その言葉に、私は悔しさで唇を噛むことしかできない。
(……最低) (……でも) (……もう、この人じゃないと、だめだ)
その事実を、私の体は、もう嫌というほど理解させられてしまっていた。