りつかん小話まとめ

きみのすきなところであいうえお!(りつかんver)

◇あざとい仕草
「みてみて、りつぴ〜」
「なんだ」
 見せられた携帯端末に映し出されるのは人間の指とペットであろう犬の姿。伸ばされた親指と人差し指の間に顎を置くように犬が収まるその動画は、まあ、世間一般的に愛らしいと表現されるのだろう。
「可愛いでしょ?流行ってるんだよ」
「はあ……」
 それを俺に教えて何の意味が?
 視線でそれを伝えようにも荻野はぐいぐいと腕を引っ張ると目的の人物を見つけたようで声を上げた。
「あ!リーダー、こっち!」
「? 二人でどうしたんだい?」
 書類を片手に歩いていた通りすがりの讙は荻野の顔を見て、そして次に俺の顔を見て不思議そうに首を傾げる。
「リーダー、まずはこれ見て!」
「?」
「……おい、荻野。行っていいか」
「りつぴ待って!」
 何がしたいんだ、こいつは。一向に離してくれないその手を振り払うには多少なりとも気が引けて、おとなしく荻野の気が済むのを待つ。何を企んでいるのかは知らないがそのうち飽きるだろう。すると、動画を見終わったらしい讙がやはり少し不思議そうな顔をしたまま携帯端末から顔をあげた。
「……うん。可愛らしい犬、だね?」
「そうでしょ〜?じゃあ、はい!」
 そう言いせっせと俺の手を掴み動画のようにセットし始めたところで、ようやくその思惑に察しがついた。
「荻野……」
 俺の声など意にも介さず、讙へとぐいと突き出される。流石の讙もその行動の意図を理解して、「ええ……」と声を漏らすが、期待の眼差しに満ちた荻野にはどうやら逆らえなかったようで、おずおずと俺の指の間に顎を乗せる。眉を下げて、これでいいか、と見上げられた上目遣いで、ああ、なんというか。はあ。なるほど。そういう。妙な納得感を胸に抱いていれば、ゆっくりと讙が離れていく。
「これで、よかった……かな?」
 讙の言葉と共に荻野の顔を見れば、にまーっと笑ったそいつと目が合う。イラッ。
「妙なことを考えるな」
「あ痛ッ! まだ何も言ってないのに!」
 えーん、りつぴに暴力振るわれたー!と讙に泣きつく荻野に背を向けて、脳裏に浮かぶ讙の顔をかき消すように煙草の箱を強く握った。



◇いつもの癖
 作業着のポケットから箱を取り出し、中身を一本咥えるとそのままカチリとライターの火を点す。一連の流れはもはや洗練されており、美しさすら覚えるかもしれない。じっと見られている視線に気付いたのか、律兎は眉根を寄せ口から煙草を離した。
「……なんだ?」
「いや、様になってるなぁと思って」
「はあ?」
 素直なその表情に思わず苦笑が漏れる。誤魔化すように告げた「一本貰っていいかい?」という言葉で差し出された箱から一本抜き取れば、真似るように口元へとそれを運んだ。



◇浮かれた足音
 こん、こん、ここん。どこかステップを刻むような足音が廊下から響き、珍しいな、と顔をあげた。顔を合わせれば仏頂面で如何にも不満ですと言いたげな表情を浮かべる新たな相棒。彼はまだ新しい居場所には慣れていないらしいようで、気を緩めた姿は見たことがない。少ししてガチャリと扉が開き入ってきた彼に顔を向ける。
「何かいいことあったのかい?」
「ん。」
 どことなく誇らしげな顔で差し出された一枚の紙は訓練で使用する標的紙だ。数発分の穴は綺麗に中心に描かれた点を撃ち抜いている。
「すごいじゃないか、律兎。射撃のセンスがあるんだね」
 紙を返しながら彼へと目を向ければ、「まあな」と言いながらソファへ腰掛けていた。可愛いところがあるんだよなぁ。そんな考えは知る由もなく、律兎は相変わらずご機嫌な様子でテーブルに置かれたスコーンに手を付けていた。



◇絵になる横顔
 意識がゆっくりと浮上する感覚。それでようやく、ああ自分は眠っていたのかと思い出して瞼を持ち上げる。いつものソファではなく敷布団と枕の柔らかさ。そういえば、昨夜任務終わりに讙の執務室のソファで倒れ込んでいたら、そのまま家まで送り届けられて寝かしつけられたんだったか。ようやく事の始終を思い出し何となしに寝返りを打って、そしてギョッと目を見張る。寝息すら立てずに眠っている相方の姿に、一瞬思考が止まる。普通の人間に"戻った"のだから睡眠は当然のことなのだが、こうして目の前で眠っている姿を見るのはかなり珍しい。死んでいるのかと思うほどに静かな姿に嫌な予感が顔を出す。首筋に触れ、脈拍と温度を感じる手のひらのに安堵していれば薄らと彼の瞼が開かれた。
「りつ……?」
「ああ……おはよう」
「お、はよう。……ごめん、眠ってしまったみたいだ」
 普段よりもほんの少し掠れた潜もった声音。はにかみながら上体を起こそうと持ち上げた左腕を掴んでそのまま自らへと引き寄せると、「わ、」という短い音と共に再び白い布団の上へとその身体は倒れ込んだ。
「……どうしたの?甘えたい年頃かな?」
 その言葉に肯定も否定も返せずにいると、すぐにくすくすと小さな笑い声が漏らされる。仕方ないなと言わんばかりのそれに眉根を寄せれば、やはりおかしそうな声が静かな空間に響いたのだ。



◇思わぬ強気
「讙、いま何時だと思ってる」
「り、律兎……」
 時計の針が頂点を超えた頃、デスクに散らばる紙束を読み耽っていれば、いつの間にか目の前には仁王立ちで見下ろす相方の姿があった。
「任務は明日まで掛かると思ってたけど……早かった、ね?」
「ああ、そうだな。たまたまタイミングが良かったおかげでな」
 部屋に入ってきた音すら気付かなかったのだから、相当集中していたのだろう。というか、そもそもこの部屋に頻繁に出入りしている人物といえば目の前の男のみで、彼がいないのだからと油断していたのだ。
「報告書を置いて帰ろうと思ったら……アンタ、俺がいない時はまさかいつもこうなのか?」
「い、いやいや!誤解だよ。たまたま仕事が重なっただけでいつもは、」
 そう話している最中にも、律兎は徐に僕のポケットに手を突っ込み探り始める。すぐに目当てだったのだろう車のキーを抜き出せばさっさと僕の荷物を纏め始めた。
「律兎……」
「ほら、帰るぞ」
「……わかったよ。でも、任務帰りの君に運転はさせられないよ。それだけは譲らないからね」
「わかったわかった」
 聞いているのやらいないのやら、投げやりな返事をしながらさっさと部屋を出ようとする彼に置いていかれないよう、慌てて椅子から立ち上がった。