「年も近いし、君が良ければ面倒を見てあげて」とアルクさんに頼まれてから、かなりの年月が経った。
初めて会ったときはちっちゃくて無愛想でみすぼらしかった二つ下の男の子、フェリスは成長期を経てすくすく健康に育ち、いまやすっかり私の背すら追い越してしまっている。昔は黙って私の背中にひっつき虫(という植物があるらしい)になっていたあの子が今や治安維持を担う組織の隊長……。なんだか嬉しいような悔しいような、とにかく姉心として一抹の寂しさなんて感じちゃったり。
「……おい」
「え?あ、フェリス」
噂をすればなんとやら。かけられた声にくるりと振り向けば、どこか不機嫌そうな青年が立っている。
「何やってんの」
「何って買い物。夕食の」
「……ふーん」
「ええ?何それぇ」
大きくなった今も愛想が良いとは言い難いが、それにしたって今日の様子は不自然だ。普段は意識しないものの、顔の造形自体は息が詰まるほどに整ったものであるし、なんだか黙ると無駄に迫力がある。遅めの反抗期かしら、と首を傾げていると持っていた買い物袋を奪い取られた。反抗期でもお手伝いはしてくれるらしい。
「ねーえ、フェリス。どうしたの?お姉さんに言ってみて?」
無言のまま隣で家路への道を歩くフェリスの顔を覗き込む。しかしそれにも何か思うことがあったのか、ムッと眉が寄せられたのを見逃さなかった。どうやら選択をミスったらしい。年頃の男の子は難しい。これはもうおとなしくアルクさんにお願いしちゃうかぁ、なんて諦めかけた時、ようやく隣から声が絞り出された。
「……った、」
「え?」
「この辺りは危ないから寄るなって、前に言った」
「ええ?ああ……え?でも路地裏とか入ってないよ?」
「当たり前だろ」
確かに、数週間前だったかに言われた記憶は薄らとある。解放者のみんなが頑張っているとはいえ、地下都市すべてが安全とは言い難い。私だってわかっているし、フェリスが思うほど無防備なつもりもない、が、彼の目からすれば残念ながら不合格だったということか。ということは、なるほど。不機嫌の理由もそういうことか。どうやって茶化してやろうかと心の悪魔がひょっこり顔を見せたが、ちらりと見えたフェリスの表情を見て、やめた。
「心配してくれたんだね。ありがとう」
不意に彼の頭に伸びた手が振り払われることはなかった。躊躇うように、おずおずと私の反応を窺うフェリスは、「……うん、」と小さく言葉をこぼして甘えるように頭を傾けたのだった。