異能者







「あ、ごめんお兄。先行ってて?」
「?うん、分かった」

 
タンタン、とお兄が階段を降りる音を聞いてから、私は自分のベッドの横に置いてあるうさぎのぬいぐるみに目を向けた。


「…………おはよう、エイル」
 

これが日課。
繰り返し見る夢に出てくるエイルのうさぎの姿と、このうさぎはとっても良く似ているのだ。
だが当然、返事はくるはずもない。
 

「よし……朝ご飯食べてこよう」
 

でも、今日はいつもと違うことが起こった。
部屋の扉を閉じようとした時に、「ごきげんよう」と聴こえた気がした。
あの声は……エイルだった。




§

 



「父様、母様、おはようございます」
「ああ、おはよう」
「おはようヨハンナ。ご飯、出来てるわよ。あなたも好きなチーズスープよ」
「チーズスープ!やった、いただきます!」
 

母様特製のチーズスープは、私達の大好物。

 
「毎日毎日、戦争の話題ばかりだな……」
 

そう、今は戦争の真っ只中。
と言ってもここレグヌムはまだ安全域。
戦線が遠い事もあり、皆はいつも通りの生活を送っている。
 

「王都貴族院議会、異能者捕縛適応法可決……か」
「異能者……?」
「異能者って、人間離れした力を持った人の事でしょう?」
「人間、離れ……」
「ああ。この世界から神の加護が消えて、一体どれだけの年月が経ったんだろうな。教団ですら神の加護を失い、人は皆希望を見いだせずにいる。神が去り、地上には異様な力を持つ訳の分からん連中が現れる始末。全く、嫌な世の中になったものだな」
「まぁ、なんて恐ろしい……。ルカ、ヨハンナ、貴方達はそんな人と係わりあいになってはダメよ」
「……うん」
「……はい」


異能者……か。


//2019.05.01
//2021.10.30 加筆修正
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