不思議な人







それからぬいぐるみが光ることも無ければ喋ることも無く、私は宿題を終わらせた。
引き続き何か手伝いをしようと階下へ下りると、母様からお使いを頼まれた。
何故だか分からないけれど、今日はあのぬいぐるみと離れてはいけないような気がしたので2階へ行ってお使い用のバッグに入れてから家を出た。




§





外に出ると、心地よい日差しが差し込む。
風がそよそよと吹いて私の長い銀髪を僅かに揺らした。


「んー……良い天気、外で遊ぶには絶好の日和ね」


外……、お兄は確か、裏の森へ行くって言っていたっけ、またエディくんとニーノくんに意地悪されていないと良いんだけど……。
そう考え事をしながら歩いていたら、何かにぶつかって転けてしまった。


「あ!ご、ごめんなさい……!考え事をしていて……」


私がぶつかったのは、綺麗な黒髪をした美人さんだった。
髪は所々跳ねていて、ふわふわしていそう。
服装もこの辺りではあまり見かけない少し派手な服を身に着けていた。


「こっちこそごめん。大丈夫かい?」
「え、あ!はい……」


声を聞いて驚いた。
見た目は女性のようだけれど、声を聞くと男性だと言うことが発覚した。
確かに女性にしては背が高いなとは思ったけれども……。
人は見かけによらない、ってこの事か……。


「ほら立って」
「あ、ありがとう、ございます……」


そう男性が手を差し伸べてくれた手を取り、立ち上がった。
すると男性は、私が持っていたお使い用のバッグを食い入るように見て、独り言のように呟く。


「! うさぎのぬいぐるみ……じゃあ君が……ヨハンナ・ミルダか……」
「え?ど、どうして私の名前を……?」
「……ボクは魂の救済者。ふたつの魂を救うためにこの世界へやってきた。キミもキミのお兄さん……ルカくんと同じく、世界の真実を知らなければならない人なのかもしれない。たとえその心が引き裂かれそうになるほどの真実であったとしてもね。真実を知ってなお、キミの魂がキミ自身の手で救済されることを楽しみにしているよ……じゃあね」
「え……?あ、あの……!」


男性は一方的にそう言うと何処かへと去っていった。

男性はルカ、とお兄の名前を口にしていた。
何故お兄の事を知っているのだろう。
お兄は、何か知っているのかな。
お使いが終わったら、私も裏の森へ行ってお兄に会いに行こう。

さて、早くお使いを終わらせなくちゃ。


//2019.05.01
//2021.10.30 加筆修正
 ・ 
[back]