面影を重ねて







指揮官に促され、私たちは戦場へと足を運んだ。
この期に及んでも嫌だよぅ……とお兄は弱音を吐いている。


「ほらお兄、手を繋いであげるから……」
「うぅ……」


そこへ、後ろ側から誰かが近付いて来る音がした。


「ルカくん! 大丈夫? ケガはない?」


近付いてきていたのはチトセさんだった。


「チトセさん…… だ、大丈夫だよ! まだ戦闘もしてないし」
「そうなの…… ああ、良かった無事で」


何だろう。
チトセさんからは何かお兄に対する"執念"や"執着"のようなものを感じる。
前世で出会っていたサクヤのアスラに対するような……。


「ヨハンナも、大丈夫だった?」
「え、私?」


こくりと首を縦に振るチトセさん。
まさか私にも話を振られるとは思わなかった。


「ええ、お兄と同じく、大丈夫ですよ」
「良かった……私、貴方達に何かあったら……」
「…………やっぱり、貴方は……」


……サクヤ。そうぽつりと呟くと、彼女は目を細めて微笑みかけてきた気がした。


「あんた、なんでここにいんのよ?」


ピリピリとした雰囲気を出しながらイリアがチトセさんに向かってそう言った。
チトセさんもあなたには関係ない、とつっけんどんな返事をして、お互いにピリピリしていた。


「ええっと、チトセさんは教団に入信したんだよね?」
「そうなの。それで、教団の奉仕活動の一環としてここで衛生兵を務めることになったの」
「へえ、頑張ってるんだね」
「ふふふ、でも私も到着したばかりでまだまだこれからなの、でもルカくんとヨハンナのそばにいられるなんて嬉しい」
「へ?あ、ありが、とう……」


なおもチトセさんにピリピリしているイリアを見かねてか、スパーダくんがイリアを遠くへ連れ出していた。
――……なぜか私も連れて。


「うわ!ちょ、スパーダくん?!」
「なにすんのよ!あんたあの女の味方なの?あたしの敵?敵なのね?」
「だ〜ッ!!黙ってろよ!ルカの野郎良い雰囲気だろ?そっとしとこうぜ」
「良い、雰囲気……??」
「ふんだ……」


それからしばらく話し、お兄はおにぎりを受け取っていた。


「少しでもあなたたちの力になれたら……またねルカくん、ヨハンナ」


チトセさんは私の方に微笑みかけると、踵を返して拠点に戻って行った。
イリアは相変わらずピリピリしたままだった。





→スキット「私とお兄1




//2021.10.27
//2021.10.30 加筆修正
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