約束







わたし、“医術の女神”エイルは幼い頃に鍛冶の神バルカンというお方に拾われ育てられた。

もちろん血は繋がっていないけれど、そんな事は取るに足らない小事。
だって、わたしにとっては家族同然だったから。


「ようし、完成だ」
「! 家族が増えたのですね!」
「そうだ、エイル。……よし、お前に魂の息吹を」

―――名はゲイボルグ。この名を刀身に刻め。


「ゲイボルグ……」


わたしがお父様の元にお世話になってから、初めての……“家族”。
それから毎日、手入れの時間になるとわたしはお父様と共に鍛冶場に出向いた。
時々、わたしが手入れすることもあった。
そんな時には決まってゲイボルグとお話をする。


「エイルっつったっけ、お前は何でここにいるんだ?」
「えっと、医術の女神として生まれて間もない頃、わたしは自分の使命が分からず途方に暮れていましたの。
周りには何も無くて、食べ物も無かった。
そんな時にお父様……バルカンが助けてくださったの」
「バルカンとお前は、本当のカゾクじゃなかったんだな」
「ええ。でもわたしは血は繋がっていなくとも、家族だと思っていますわ。もちろん、ゲイボルグ……貴方の事も」


そう言ってそっと優しくゲイボルグを撫でてあげた。


「……エイル姉さんってかァ?」


ゲイボルグはヒヒッと笑いながら言う。


「……初めて言われたからかしら、とても違和感がありますわね」


つられてわたしもフフッと笑い、わたしとゲイボルグの間に不思議な絆のようなものが生まれた…ような気がした。




§





ゲイボルグと話している時は本当に楽しかった。
でも、楽しい時間はそんなに長くは続かなかった。


「ふふ、それでね、ゲイボルグ……」


いつものように手入れをしながらゲイボルグと楽しくおしゃべりをしていた時、お父様が話し掛けてきた。


「エイル、」
「?なんですの、お父様」
「……ゲイボルグの、使い手が見つかった」


それを聞いて、わたし達はお別れなのだと察した。


「そう……そうですわよね、彼は武具ですもの……」
「エイル……」
「わ、分かっていましたわ、いずれこうなる運命だと。彼は、武具、ですもの……」


悲しみに耐え切れずに涙を零してしまった。


「なに、永遠の別れじゃない。いつか再会した時の為に、その涙は残しておきなさい」
「……はい、」


その日、わたしはゲイボルグに寄り添って眠りについた。


§



そして使い手の手に渡る日が来てしまった。


「ゲイボルグ……」
「また会えるさ。姉さんが戦場に顔を出しに来てくれりゃあな」
「……落ち着いたら、会いに行きますわ。約束よ」
「フッ……待ってるぜ、エイル姉さん」
「ええ。またね…愛しい弟」


刀身に口付けを落とし、ゲイボルグに別れの挨拶をした。
そして、彼の裏の気持ちに気が付かないまま私は"その日"を迎えてしまうのだった。


//2019.05.01
//2021.10.30 加筆修正
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