裏切り







あれから数週間が経ち、わたしは戦場に出向くようになった。
誰かを傷つける為ではなく、怪我をしていたり倒れている方の救護をしている。
……医術の女神ですもの。
そしてあわよくば彼に会えたら……なんて思っている。


「ではお父様、今日も行って参りますわ」
「ああ、気をつけてな」


カーンカーンと工具の音をならしながらお父様は見送ってくれた。
もうすぐ、また新しい家族ができるのだ。
ふふ……楽しみですわね。



§



今日の戦場は異様に負傷者が多かった。
皆は口々に魔槍が、魔槍が、と呟く。


「魔槍……ですの?」


槍の使い手の異名、なのでしょうか……?
そう思いながら、癒しの術をかけていく。


「――ま、魔槍だ!!」


ある1人の負傷者の向けられた指の先を辿ると、そこには見覚えのあるシルエットが見えた。


「うそ…」


魔槍と呼ばれていたのは、使い手の事ではなく、槍“そのもの”の事を呼んでいた。
慌てて岩陰に隠れて様子を見る。
……間違いない。
血で汚れてはいるけれど、あれは……


「――……ゲイボル、グ……?!」


信じられなかった。
わたしといた時は、戦いはめんどくさいだの、行きたくないだの、早く終わってほしいだのと武具ならぬことを喋っていたのに。
今では、まるで殺戮に目覚めたような……そんな雰囲気を感じる。
あれはもう、わたしの知っているゲイボルグでは無かった。


《……落ち着いたら、会いに行きますわ。約束よ》
《フッ……待ってるぜ、エイル姉さん》


別れ際にした約束がこんな風に叶うなんて想像もしていなかった。


「裏切りも同然ですわよ……バカ」


//2019.05.01
//2021.10.30 加筆修正
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