慈愛に満ちて


5-3





『え、ええ、急に言われたって……心の準備というものが、あるんだよ……』

「んあはは!!…………だめぇ?出来れば呼び捨てがいいかにゃ〜〜〜なぁんて」

『ぐぅ、』



そ、んな甘い声で言うな!!!なんなんだこの人は本当に。

この人に出会ってから、助けて、助けられて、振り回されて。忙しくてしょうがない。

でもそれが、どうしようもなく楽しかったりもする。




『注文、多くないか……』

「んは、そう?」

『そうだよぉ……』

「はは!!やっぱダメかぁ……」




でも、でも。なんだか彼の言うことは聞きたくなってしまうのだ。自分が押しに弱いということは理解しているけれど、不破さんの言うことは特に。

なんだかんだ、やだやだ言って既に毒されているような気がする。


ああもう、なんだか負けたような気分だけれど。1度しか、言わないんだからね。




『…………み、なと、くん』

呼び捨てはキツかった。言い訳をしよう。でも、呼んであげた。


「エッッ、アッ、スゥ……ぁ、いい、っすねぇ……」

ガタン!と何かが倒れたような音がしてから、戸惑いの声が聞こえた。それから。


この世の全ての甘いものを煮つめたような、声が聞こえて。



『っっっばいばい!!』



電話を切った。逃げたのだ。ついでにLINEもしておこう。「今日いっぱいは返事返しません返せません」
よしこれでいいだろう。


直後からとんでもない速度で通知が飛んできている。きっと不破さんだろうし電源を切ろう。



腰掛けていたソファに顔を下にして横になる。
ああ、だれか、私の顔の熱を、冷ましてはくれないだろうか。




だから、忘れていたのだ。不破さんに何を言おうと思ったのか。何を言いたかったのか。


でも、それに気づくことは、なかった。



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