大学院生が妹と出会いました。






最初に出会ったのは、曲がり角。


ぶつかったのは俺も彼女も考え事をしていたためであり、

謝罪ついでに手をさしだして・・・それで終い。



かと思いきや子どもたちが現れた。





はじめは何の話をしているのか分からなかったが、


彼女、黒羽優が子どもたちと、

そして阿笠博士と知り合いだということは理解した。



聞けばマジックのための試作品を阿笠博士がしたらしく家に向かうために急いでいたとの事。





マジックのタネを見破るのは嫌いではないが、実演する側の楽しさなど俺にはとんと理解できない。


だが、あの彼女たちについていくことは、阿笠邸にお邪魔することであり、

例の妹の様子を窺える。

ついでに盗聴器の位置も調整できるな・・・、



とりあえず、着いて行って損はなさそうだ。




















事は予想とは違って、

上手くいかなかったようだ。



まぁ、試作品が出来た時点で走って向かうくらいに期待していたようだから仕方ないといえば仕方ないことなのだろうが・・・。



彼女、黒羽優は自己紹介をした際に高校一年といっていたが・・・


子どもたちに慰めてもらっている様子からは、真澄と一つ違いとは到底思えないほどに幼さが際立っているように感じる。


一つ違うとここまで変わるものだろうか。


そもそも黒羽優と真澄とではタイプが違いすぎて比較にならないだろうか。




髪の長さも、肩より下で

ふんわりとした雰囲気、

制服のスカートがよく似合っている



三十過ぎの男が不躾に観察していることはこの際気にしない。


やはり、どこを比べても真澄とは正反対な存在だ。




だが、










だが、

どこか重なって見えるのが不思議だった。




自然と庇護欲をそそられるようなそれが、


真澄の兄として生きてきた自身に強く訴える。




きっと彼女には兄が居て、

妹として生きて来たに違いない。




でなければ、こんなに自然に俺が今日会ったような人間を慰めるはずがない。






"スライダー体質" その事実によって希望を断たれたかのごとく涙する少女の頭をそっと撫でる。

まぁ、事実を伝えて追い詰めたのは俺なんだが。





似ているようで似ていないからこそ、加減がよくわからない戸惑いもあったけれど、

驚いたように彼女が顔を上げたので内心ほっと息をつく。







「大丈夫、機械仕掛けだけがマジックじゃありませんよ」

努めて優しく、言った。





嗚咽で上手く話せないながらにも彼女は首を振って否定する。






阿笠博士の発明に頼るぐらいなのだから、


これまでいろいろ試して失敗に失敗を重ねたのは想像がつく。


「もう、どうにもならない」と諦めているのなら中々のネガティブさだな・・・。







マジックは言ってしまえば、人を騙すものだ。

すなわち、物は考えようだ。



ずると言えばずるだが、それもテクの一つとすればいい。





「確かに、テクニックや仕掛けによって人を驚愕させるのがマジシャンかもしれません。

しかし、それが全てではないでしょう?・・・僕が優さんに魔法をかけてあげましょう」






膝をついて、俺は彼女を覗き込むんだ。


絶えず頬を伝って落ち続けている雫を止めようと拭い去る。





どうにも彼女は兄としての俺を引き出してしまう。


落ち込んでいるならば、声をかけよう

泣いているなら、泣き止ませなくては




自然とそうさせる感覚に抗うことなく従ったのはただの気分だったけれど、




俺の言葉によって再び瞳に光をともすその様は嫌いじゃなかった。

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