妹が探し物をします。








「どこにいったの・・・?」


私は米花公園のあちこちの草を掻き分けてある物を探していた。
公園に来る前は確かあった。だからなくしたのはきっと此処に来たとき

なのに、なかなか見つからない。




「どうしてないの・・・あれは、」

地面に膝をついたあちこちを見回すけれども、目当てのものはない




「優さん?」


「お、沖矢さん、こんにちは」


聞きなれた声に振り返ると、知った顔が優しい笑みで私を見下ろしていた。




「こんにちは、どうされたんですかこんな所でしゃがみこんで」




「お、おきやさぁぁん・・・」




沖矢さんは困ったと私を見つける力でも持っているのかな、なんてくだらないことを思いつつも

目の前の男性がヒーローのごとく頼りになることは確かだと感じていた




不安と焦燥がはりつめていた胸が、沖矢さんをみて気が緩んだのか私の涙腺も不思議と緩んでしまった



「こらこら。泣かない、泣かない」

恒例となりつつある彼の優しい手つきの撫でを頭に感じながら、言葉を返す。





「だって・・・」


「お話聞いてあげますから、落ち着いて」




さっきからうすうす感じているのは、沖矢さんの私に対する子ども扱い・・・。


高校生の私にはちょっと納得のいかない扱いだけれど



会うたび僕が優さんを泣かせてるみたいで困ります、と言われてしまい素直に従うのだった。
















「なるほど。お兄さんから貰った大事なストラップがなくなって探していた、と」

一度近くのベンチに二人で腰掛け、此れまでの経緯を沖矢さんに話した。



「はい・・・」



「米花公園でなくしたことまでは分かってるんですか?」




「今日は天気が良かったから、公園のベンチで読書でもしようと思ってここに来たんです。
しばらくして母からメールが届いて確認してましたけど・・・確かにストラップはあったんです!」



「ということは・・・その後ですね、」



自然な仕草で手を顎に添えて考え事をする沖矢さんはどこかの探偵のように見えた。私はそのときの状況を思い返しながら沖矢さんの言葉に頷く。




「母のメールの内容がスーパーでの買い物だったので、その後スーパーに向かったんですが」

途中でストラップがないことに気付いて・・・




「引き返してきたんですね?」



「はい。公園に引き返すまでの道のりにも落ちていなかったので此処にあると思ったんですけど・・・」



予想と違って公園でもストラップを見つけることが出来ずにいた。

そして、そんな私に沖矢さんが声をかけた、という訳なのだ。






「・・・ストラップは、どんなものなんですか?」



「あ、えっと・・・白のタッセルがついてるストラップです、これくらいの。」



私が手で大きさを表しながら特徴を伝えると、沖矢さんは頷いて立ち上がって周辺の地面を確認し始めた。





「探すの、手伝ってくれるんですか・・・?」


急なことに理解が追いつかず、背を向ける沖矢さんに問う。


ゆるりとこちらを振り返った彼は、さも当然というように、えぇ、と返し言葉を続けた。




「優さんがまた、泣いているので」




「そ、それはっ!」




言外に泣き虫、という意味が伝わってきて恥ずかしさが私の顔を熱くさせる。

思わず前のめりになりながら理由を言おうとするけれど、



すかさず口を開いた沖矢さんの言葉にさえぎられてしまう。





「お兄さんからの大事な贈り物をなくしてしまったから、でしょう?」



「分かっています。けれど・・・僕は、自分が思っている以上に貴方の泣き顔に弱いようだ。」





「・・・え?」




再び背を向けてストラップ探しを始めてしまった沖矢さん。
表情を見ることが出来なくて私にはどんな意味合いの言葉のかはよくわからなかった。



からかい半分の言葉か、
沖矢さんの妹も同じように泣き虫で姿が重なるとか、かな・・・





「ほら、ぼーっとしてないで優さんも探すんですよ」


沖矢さんに言われて「はーい、」と気の抜けた返事をしてしゃがみこみ辺りを見回す。
一人で見つかるか分からない探し物をしていた時は、本当に心細かった。


だけど、それは沖矢さんの優しさによって今はそんな心細さを微塵も感じない。

どちらかというと、嬉しさといった温かさがじんわりと広がっているのだった。








分かれて辺りを探して幾分か時が経ったけれど見つかりそうもなくて、
私はまた不安になった


すると、いつのまにか近寄っていた沖矢さんが口を開いた。


「優さん、このストラップで間違いありませんか?」


沖矢さんの左手には、少し汚れてしまっているけれど確かに見覚えのあるもの。

ずっと探していた白のタッセルストラップ。


お兄ちゃんからはじめてもらったプレゼント。




「こ、これっ!どこに・・・?」

慌てて立ち上がって沖矢さんに駆け寄る。



「あちらの草を掻き分けていたら見つけました。猫や犬が咥えて移動でもしたんでしょう。」

見つかってよかったですね、



優しく笑いかけて、握っていたものを私へ差し出してくれる沖矢さんは、やっぱり私のヒーローだった。
うれしくて、つい差し出されたストラップともども沖矢さんの手を両手でぎゅっと握り締めた。



「はい!沖矢さんのおかげです、本当にありがとうございます!!」



触れた手から少しでも私の喜びや、感謝の気持ちが伝わったらいいな、なんて思った。



「いえ、たいしたことはしていませんよ。」


「そんなことない!私、すっごく嬉しかったんです」

一緒に探してくれたこと、嬉しかったんです!


そういって沖矢さんは首を振って私の言葉を受け入れてくれないからついムキになって、
食い気味に言葉を返した。握っていた手にもさらに力を込めて思いを表現する。




「優さん、ちょっと痛いです・・・」


「へ?・・・あっ!ご、ごめんなさいっ!」



困ったように眉を下げた沖矢さんに、漸く力を入れすぎていることに気付く。

というか、私、沖矢さんの手を握るなんて大胆なことして・・・!



いつもの自分らしからぬ行動をしてしまったことに恥ずかしさが込み上げて体をカッ、と熱くさせた



「くすくす、」


頭上から笑い声が聞こえてきて、もっと顔に熱が集中して、隠すようにうつむく



「わ、笑わないでください・・・」


「照れるくらいなら最初から触れなきゃいいものを・・・」


未だ笑いを抑えられないのか口元に手を当てている沖矢さんが少し恨めしい・・・



確かに、沖矢さんの手に触れなきゃこうはならなかったかもしれないけど

「だって嬉しかったから、」



「見つかったのが?」


ストラップが見つかったのは嬉しかった。


「それもありますけど、見つけてくれたのが沖矢さんだったから・・・」



沖矢さんに見つけてもらえたこと。

沖矢さんが探すのを手伝ってくれたその優しさが。
私にとってそのことが一番嬉かったのは、嘘じゃないから

顔が赤いのを自覚しつつも沖矢さんの目を見てもう一度、ありがとうございます、と伝える。




「・・・やれやれ、」


口元に当てていた手が眼鏡に移動し、指で押し上げていた。

私には反射したレンズの向こうの沖矢さんの表情は窺えなかった。



「沖矢さん?」


よくわからず、首をかしげて彼の名前を呼ぶ。






「お兄さんも大変ですね・・・」


「なにがですか・・・?」


沖矢さんはときどき不思議なことを言っていてよくわからないな・・・。


兄同士なら分かる何かがあるのかな?





「秘密、です」


「ず、ずるいーっ!」


どこか怪しげな雰囲気を醸し出して沖矢さんはそれ以上口を開いてくれなかった・・・



「くすくす、優さんがもう少し大人になったら教えてあげましょう。」




納得いかなくてくいついても、

いつもの優しげな笑みでさらりと躱されてしまう。




確かに、私は沖矢さんから見たらまだまだ若いのかもしれないけど、


「今日会ったときからうすうす感じてたんですけど・・・私のこと子ども扱いしてますよね?」



私が、じとっ、と視線を送って沖矢さんを窺うと



「おや、ばれてしまいましたか」

いかにも驚いた、という表情で言った。


「もうっ!」

沖矢さんのわざとらしく言う様に、やっぱり!という思いと、子ども扱いされる恥ずかしさ、
そしてこのような冗談を言い合えるぐらいに沖矢さんと距離が近づいたことへのちょっとした喜び、

これらが混じった声をあげる。




仲良くなれたのが嬉しい、っていう思いは・・・まだ私だけの秘密。

この嬉しさは、隠し事をする沖矢さんには教えてあげないんだから。


内心一人で言ちる。







「拗ねない、拗ねない」


ぽんぽん、と慣れたように私の頭を撫でる手。

意地悪な言動とはちがって優しさに溢れる手つきがとても居心地良くて、
受け取ったストラップ握り締めながら、ゆっくりと目を閉じた
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