妹がお出かけします。














「青子ちゃん!ごめんね、遅くなって・・・!」








今日は前々から約束していた青子ちゃんとのショッピング。



普段行かない杯戸町のショッピングモールに行くので、私は朝からうきうきしていた。






すると、そんな様子を見たお兄ちゃんが私の格好や誰と出かけるのかをすごく聞いてきた。

青子ちゃんとのお出かけだって言ってるのに、全然信じてくれない・・・




確かに、お気に入りのシフォンスカートを着て化粧もしてるけど女の子がおしゃれをするのは男の子とのデートだけじゃないのに、もう・・・。


なんだか心配してくれてるのは分かったけれど、準備がはかどらなくて邪魔だなぁ、と思っていると




家のベルが鳴った。いつのまにか約束の時間。

突進するように玄関へ向かったお兄ちゃんを見送って、


お兄ちゃんと青子ちゃんのいつもの言い合いを耳にしながら今のうちに準備を進める私だった。


















「んだよ、青子か・・・」

思わず心の声が口に出る。


優が、おしゃれをしてさらに可愛さをアップさせて一体誰と合うのかと、焦ってしまった。

最近よく口にする”沖矢”という男だったらどうしてくれようか、と・・・。



俺にとって安心ゆえの言葉は、青子には嫌みに聞こえたらしい。




「なによバ快斗!青子じゃいけないのっ!?」


青子の私服なんて見慣れているが、俺と出かけるのと同性の優と出かけるのじゃ、雰囲気が違うな・・・などついまじまじ観察しながら。




売り言葉に、買い言葉だった。



「優がおしゃれしてっから、てっきり男かと・・・。てかその呼び方やめろよアホ子!!」


俺と青子と、妹の優は幼い頃からずっと一緒だった。



にもかかわらず、青子は優が彼氏を作ることにどこか協力的で面白くない。

簡単に渡してやるなんて、できるわけねーだろ・・・。



「デートしようが、彼氏作ろうが優の自由でしょ!?青子はアホじゃないもんっ!」


女同士なにかと分かってあげられることが多いのは理解できるが、

本当の兄妹なのは俺で、

ずっと一緒に居るのに、どうして俺のそんな兄心や、その他もろもろの想いもこいつは察せられないのか・・・。



「兄貴の俺に関係ないわけないだろっ!!つか、俺だって馬鹿じゃねーよっ!」



照れ隠しもあってか、結局こうして優が止めるまで言い争ってしまう。

そして妹も、大きくなった現在ではすっかり青子の味方になった





俺はなんだか悔しい気分になって、

”その服に合ってるな、”と思っていたなんて決して青子には言ってやらないことにした。



























そして冒頭に戻る。








そんなこんなで、お兄ちゃんと青子ちゃんの言い合いを止めた私は、

遅れてしまった事を青子ちゃんに謝罪した。


「平気平気!バ快斗のせいで時間無駄にしちゃったことが大問題よっ!」


「そんなこといって・・・青子ちゃん、私を向かえ行くのを口実にお兄ちゃんに会いに来たんでしょ?」


お兄ちゃんが居ないところでも、青子ちゃんの口からは本当によく、お兄ちゃんの名前が出る。

それだけ青子ちゃんの世界が、お兄ちゃんでいっぱいなのがよくわかって


つい、にまにました目で青子ちゃんをからかった。


「そっ、そ、そんなわけないでしょっ!?いくら優でも怒るよっ!」


「はいはい、」

青子ちゃんは純粋で照れ屋さんだから、

お兄ちゃんについつい厳しく当たっちゃうし、お兄ちゃんの照れ隠しの暴言も真に受けちゃう。


見ててじれったい思いをしてるのはきっと私だけじゃない。

まぁ、私が一番長くその思いをしてるけど。














杯戸町のショッピングモールについた時には私たちのおなかも減り可愛らしい雰囲気のカフェで食事をとることにした。




「でね、快斗ったら・・・」

青子ちゃんのお兄ちゃんについての話は尽きることがなく、あっという間にデザートまで食事がすすんでいた。






家ではどんな風なのかがとても気になるようで、ときどき私におにいちゃんの事を聞いてくる。

幼馴染だから普通に家に来ればいいのに・・・



中学生に上がってそうそう、二人の仲の良さをからかわれたらしく、それ以来青子ちゃんはウチに大っぴらに訪ねてこなくなった。



「お兄ちゃん、最近機械いじりがブームみたい。よくカチャカチャやってるよ、」


「そーなの?知らなかった・・・」



自分の知らない好きな人の一面は嬉しいようで、寂しいみたい。

青子ちゃんは素直だから、その分、応援したくなる。




ずっと幼い頃から私にはお兄ちゃんも、お姉ちゃんも居た。


本当に血が繋がっているのは兄だけだけれど、青子ちゃんと家族に慣れたら嬉しいな、と密かに思っている。


そんな私が青子ちゃんの恋心を応援しないわけがない。







「快斗のことはさておき・・・優は好きな人いないの?」


「へっ?」


急に改まった雰囲気を作った青子ちゃんは、私に恋バナをするように求めてきた。

どちらかというと話を聞くほうが得意な私に、むちゃぶりだよ青子ちゃん・・・



「だーかーら、す・き・な・人!高校生になったんだから、恋の一つや二つ!」



ずっとお兄ちゃん一筋な青子ちゃんは自分の事を棚に上げて向かい合わせで座っている私にずいずいと詰め寄ってきた。

さすがにこれ以上詰め寄れないだろうな、と感じてテーブルの存在をありがたく思いながら青子ちゃんに言葉を返す



「い、いないよっ!!」



「ホントに・・・?」


青子ちゃんの瞳に写る私自身と目が合う。

ここできょどると追求を免れないと思って、瞳の中の自分を強く見つめ返す。




「ホントにホント!」




「・・・そっか、」




ようやく青子ちゃんが前のめりに問い詰めていた姿勢を戻して落ち着いた。

納得してもらえたようで良かった、と私はケーキをひと口含んだ。





「・・・・・・・沖矢さん、」


こちらを窺うように、青子ちゃんが静かにそう呟いた。





「うっ!っく、ごほっ、」

青子ちゃんには言っていないはずの名前が急に出てびっくり。
まさかこのタイミングで言われるとは思っても見なかったので、見事にケーキを詰まらせてしまった。



「ちょ、優!?」

ほら、水!大丈夫!?


そんな私に今度は青子ちゃんが驚いて、慌てて水を差し出してくれた。






「落ち着いた?」


「う、うん、ありがとう。でも、どうして青子ちゃんが、」



「バ快斗が言ってたの。最近優が「沖矢さん、沖矢さん」って言うから面白くない、って」


「なっ、」

そんなに言ってたかな・・・そういわれると急に恥ずかしくなって顔が熱くなるのを感じる





それにね、
「優が沖矢さんをどう思ってるのか聞いて来い、ってメールが来たの」


と、青子ちゃんは私に携帯の画面を見せてきた。お兄ちゃんからのメールで間違いなかった。




というか、いつの間にこんなメールを・・・?

二人っていつも対立して揉めてるイメージなのに、何でこういう時だけ一致団結するんだろう・・・






「青子も、優の恋の行方が気になるから・・・洗いざらい吐いて貰うからっ!!」





「・・・・はい、」



いつもの倍の可愛さを振りまいた青子ちゃんの笑顔に、私はもう逃げるすべがなくて諦める。




妹の私より
お姉ちゃんとお兄ちゃんは一枚上手だもんね・・・




でも、青子ちゃん

私たちショッピングしに来たんだよね・・・?
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