大学院生がお出迎えします。







家のベルが鳴った。


「誰だ・・・?」




変声機のスイッチを入れて沖矢として玄関へ向かう。
扉を開けると・・・


「こ、こんにちはっ」


この声はあの少女、黒羽優のもの。
しかし、目の前に居るのは・・・可愛らしい、という言葉が似合う人物ではない

どちらかというと美しい、セクシー、という言葉のほうが似合っている。



「あなたは・・・優、さん?」


「は、はい」


思わず優か確認してしまうほどに、いつもとは違った雰囲気の彼女がそこに居た。



部屋に通し、向かいの椅子に座った優を改めて見る。



「随分大人びた雰囲気になっていたので驚きました、」


「その・・・変じゃ、ないですか?」


慣れない格好と俺からの視線が相俟って少し居心地の悪そうな優。
自信なさげに俺を見るものだから、先ほどからずっと感じていたことをきちんと言葉に出した。


「よく似合っていますよ、」



女は服と化粧でどうにでも変わる、とはよく耳にするが・・・これほどまでとは。
彼女は、タイトなワンピースで体のラインを強調させた服を身に纏い、惜しげもなくその白い腕足をさらしている。

上はホワイトと下はブラックで色分けされたワンピースは彼女の純粋な部分と妖艶な部分をあらわしているかのようだった。


女子高生は、30を過ぎた自分にとってはひと回り以上年の離れた子どもだと思っていたが・・・油断できないと思い知らされた。





「しかし、急にどうしたんですか?」


ふと思うのは、そんな格好で俺を訪ねてきたのかということ。
ブラコンの気がある優なら、まず兄に見せるだろうに・・・。既に見せたのだろうか。

まぁ、それはそれで面白くないが。


「えっと・・・友達がいつもと違った格好をしてみろって、」

"大人の魅力"って言ってこの服を、
そういった優は一拍おいてから、

「それで、その・・・、沖矢さんに、見てもらいたくて・・・」

と、いった。


「っ、」

なんてことのない言葉に動揺した。
優の言葉はいつだって真っ直ぐで、それでいて破壊力がある。


俺に、とはそういう意味にとるべきなのか・・・?
子どもでもないのに、心が躍る



「大人の視点での評価が知りたくて・・・」


「・・・そうでしたか。」


あくまで大人、か・・・。
沖矢でなくても良かったように取れる言葉に複雑な思いを抱く。


なんだかぬか喜びさせられた気分である。
俺が勝手に勘違いしたにしても、思わせぶりな言動をする彼女も悪い。



そんな考えから、優に対する加虐心が芽生えて
彼女が反応すると分かったうえで言葉にする。

「僕は今日の優さんも、普段の優さんも好きですよ」





「へっ!?」


「くすくす、格好は大人でも中身はいつもどおりですね」



好き、という言葉にやはり反応するところは純粋な女の子、といったところか。予想通り顔を赤くしてどぎまぎする優が面白く、笑みがこぼれる。


彼女の素直さからくる言動は嫌いじゃないが、それによって動揺する俺はどうもいつもの自分じゃない
こうして優のころころ変わる表情を余裕をもってからかうほうが自分らしい気がするのだ。




「中身は子どもって言いたいんですか・・・」

「いいえ、可愛らしい、が正解ですね」


事実、恨めしそうに俺を見上げているにもかかわらず、彼女は未だ顔を赤くしていて愛らしい。

俺が返した言葉にさらに顔を赤くするもんだから、一体どこまで赤くなるのか試してみたくなるが・・・
あまりやりすぎると拗ねてしまいそうだからな、



「きょ、今日の沖矢さんはいつもより意地悪です・・・」


俯き顔を手で覆って隠してしまった優。
一見すると泣いているようだが、ちらりと見える耳は真っ赤。


「くっ・・・すみません、」


笑いをかみ殺し、
いつものように手触りのいい髪を撫でて機嫌をとるが、




「だめ。許してあげない、」


今回はそれも効かなかった。笑いをかみ殺してるのがばれたか・・・。

余計に拗ねさせてしまったようだ。頭を撫でる手は払われないものの、顔を上げてくれず、彼女にしては珍しく強い口調言葉を発していた。






「おやおや、困りましたね」
大して思ってもいない言葉を形だけ口にする。

俺としては、手のひらで愛でていたハムスターに指をかまれたような感覚でしかない。
もはやそんな反抗すらも可愛いと思えてしまうぐらいだ。



「どうしたら許してくれますか?」



「・・・・・・」



少し屈んで、優の耳ももとで優しく問うが、ピクりと反応はしても返答はしてくれない。
いじめて拗ねさせておいてなんだが、俺はこういった事は得意ではないのだが。


とりあえず優の頭を撫でて、沈黙を過ごす。
すると、

「・・・・の、まま」



「ん?」





「もう少しこのまま、撫でて・・・」


小さな声で呟くように優が言った。なんとも無欲で愛らしいお願いだ。
このまま、なんて言わずいっそ撫でくり回してやりたくなるのを抑えて言葉を返した。


「・・・了解、」


格好が大人びていても、変わらず愛らしさが存在し、
二つのアンバランスさがいつも以上に俺の加虐心を刺激した。


やはり、いつもの格好のほうがいいかもしれん。
今日は調子に乗っていじめすぎたからな・・・。

そう思いつつも、俺の脳裏には今日の優の姿が焼きついていた。
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