兄と姉の後日談。







「なぁ、優はなんて言ってたんだよ?」

探ってほしいと青子にメールをしたけれど、了解という言葉以降返信が無かった。
あんなにそわそわしながら結果を待ったって言うのに・・・。



翌日早速青子に詰め寄った。


「だーかーらーっ!!優も分からないって!」

何度も言わせないでよっ!!


しかし、さっきからずっとこの調子。
そんな言い分で納得できるか。


こっちは、大人っぽい服を買って帰ってきた優まで見てるんだぞ?ありゃー沖矢って人を意識してるに違いない。



「・・・青子お前、ちゃんと聞いたんだろうな?」

あまりに不可解な返答に俺は思わず青子を疑ってジトッと視線を送る。
いつものことだけど、青子はいっそう大きな声で俺に言い返してきた。


「聞いたわよっ!!ホントに分からないって!!」


「聞いといて、分からないって」

そりゃねーだろ・・・、


二人が一緒だと、青子が話して、優が聞くっていう役割なのは想像つく。
だからこそ、一方的にしゃべって大して聞いてなかったというオチなんじゃ・・・


俺の思考を知ってか知らずか間を空けずに青子が言った。


「だって優がそう言ったんだもん」





・・・・・・・もんって、
目を逸らしたのは、詰め寄ってそう言った青子が可愛いと感じたわけじゃない。

断じてない。



・・・とりあえず、俺は青子の言ってることがホントなのだと感覚で悟る。
まぁずっと一緒に居りゃ、嘘の一つや二つ見破るのは簡単だ。青子となれば一層分かりやすいし。


言い合いしていて気付くのは、何の収穫も無いこと。

「てか、結局好きなのかどうなのか分かんねーのか・・・」


俺は頭を抱える。

大事な妹が沖矢ってヤツをどう思ってるのか気になって仕方ない。
知らない間に付き合ってたらそれこそ立ち直れない。


「あ、でも・・・」



「なんだっ!?」


急に青子が何かを思い出したように言葉を零した。
俺は顔を上げて続きを促す。




青子の顔はなぜか微妙な表情になる。
すこし迷うそぶりをしたが、俺の視線に負けたのか口を開いた。

やっぱり気になるだの、何だの言ってたんじゃ・・・



「沖矢さんって人、快斗に似てるんだって。「お兄ちゃんに似てて安心するの」って優が言ってた。」


「っ、!」

聞いたと同時に、

カッと顔が熱くなった。
キッドとして父さんに教わったポーカーフェイスを心がけてる俺も、さすがにこの感覚まではコントロールできなかった。


顔を逸らして、手で半分顔を覆って咄嗟に隠す。しかし呆れたような顔で青子が俺を指差す。



「・・・快斗、耳真っ赤だよ。」


「バーロー!!これは、そのっ、気のせいだっつの!!」



青子は俺と優の仲の良さをシスコンやらブラコンといってからかう。
今回もその一面を見ることになるが故に、さっきの微妙な表情をしたのだと今更気付いた。


てか爆弾落とすなら事前に言えよ、おかげでノーガードで喰らっちまった・・・
言い訳をしても無駄なのは分かっていても、青子の指摘を素直に認めるのも癪だった。

随分杜撰な誤魔化し方だったが。



逸らしたままの俺の背後から聞こえてくるのは、ため息。


「青子、二人が仲良すぎて疑っちゃう・・・。一線越えてたり、」


「越えてねぇよっ!!アホ子!!!」



変なことを言う青子に、思わず振り返って否定する。
シスコンなのは自覚があるけれど、あくまで家族として大切な存在なんだ。


妹は守るべきもんだし、父さんが居ない分優は寂しい思いをしたはずだから、俺が兄貴としてそういうところも支えてやんないと。


傍に居て見て来た青子が俺のこの気持ちを知らないわけがないのに。
大体、そういった意味で大事なヤツは、すぐ傍に居るっていうのに・・・。


どうしてこうもアホなんだ。地味に腹が立つ。



「なっ、アホじゃないもん!!そんなに噛み付かないでよ!!」

余計怪しいよ!!と青子。
何で妹との関係を青子に疑われて、その上弁解しなきゃ何ねーんだ。

噛み付いたのはお前が俺の気持ちを悟らないからだ。だけど青子はそんなこと気付かない。




否、気付けない。
青子ってそーいうやつだった。いつだって俺のペースを崩してきて、どうにもやりづらい。

ポーカーフェイスだって青子の前では何の役にも立たなくて。

逆に言えば、
いつだって自然体でいれる相手が青子。振り回されて大変だけど、嫌じゃない。青子だから。


俺の想いが欠片も伝わってないのには虚しさを覚えなくも無いけど、青子のそーいう鈍感さも含めて・・・。
再認識なんて、もう何回したか。



優の恋路について詳しいことを一切知れていないと俺が気付くのは一日を終えてから――――。

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快斗のメールに了解、なんて返信してからあえて何も送っていない。


クラスメートで、席も近いから話すきっかけが無いわけじゃない。

でも、いつも青子から声をかけてる。きっと快斗は気付いてないんだろうな、


優のことだったら、快斗は気になって自分から青子に声をかける。
それだけのために、って言われたら終わりなのかもしれないけど青子にとってはビッグイベントだもん。

けれど、


「だーかーらーっ!!優も分からないって!」

何度も言わせないでよっ!!



いつものように、言い合いの状態になっちゃった。
快斗が声をかけてくれたのは嬉しかったのに・・・思った以上にしつこい。
最初のときめきもすっかりなくなちゃった。



確かに、「分からない」っていうのは納得できないかもしれないけどホントなんだもん。


とりあえず、最後のほうは青子が沖矢さんに「大人の魅力アピールしよう!」なんて背中を押しちゃったのは絶対秘密にしなきゃ。
余計なことすんなって、このシスコンに怒られるのは目に見えてるし。




ちょっとした後ろめたさもあるけど、これは優のためにも必要なことだし!

いつも青子の恋路を応援してくれる優の恋路は、青子が応援しなきゃ。



快斗の疑わしげな視線に、ボロを出さないように気をつけながら再度同じことを言う。


聞いたけど、分からないって。

「だって優がそう言ったんだもん」




「結局好きなのかどうなのか分かんねーのか・・・」



快斗は項垂れる。妹の優のことになると昔からこう。
青子のときもこんな風に悩んでくれたら嬉しいのになぁ。



一時、優のことが羨ましくて仕様がなかった。
快斗と一緒に居る優を見れば見るほど青子の心に黒い感情が広がって、つらくて、うまく笑えなかった。



今は、この二人はそーいう距離感なんだって受け入れたから、平気。


でも、嫉妬しないわけじゃないんだよ。
ふとした時に優が快斗の妹だってことに感謝することは多いし。


優はいい子だから、快斗が心配する気持ちも分かる。青子だって優のお姉ちゃんだもん。




「あ、でも・・・」

ふと優と沖矢さんについて話した時を思い出して、言葉が零れた。




「なんだっ!?」


あの時の優の言葉は、ブラコンだなって思ったけど、このシスコンに聞かせていいものか・・・・。

これ以上、二人のやりとりで青子がおなか一杯になってもなぁ、と一瞬言うのを躊躇ったけど、






「沖矢さんって人、快斗に似てるんだって。「お兄ちゃんに似てて安心するの」って優が言ってた。」



「っ、!」


快斗がそれで喜ぶならいいかな、なんて。

快斗は得意げな顔や、したり顔をすることが多いから照れたときの表情はとっても貴重だなぁ。



嬉しくなって自然と口角が上がったのが分かった。



まぁそれが、妹の言葉に対してだから、相も変わらずシスコンであるのは否めないので、
ついつい呆れた声で、指摘する。


「・・・快斗、耳真っ赤だよ。」



「バーロー!!これは、そのっ、気のせいだっつの!!」



普段余裕な態度を見せてることが多い分、焦ったときの対処が下手くそなのも、快斗の特徴。
そんなこと知ってるの家族以外だったら青子ぐらい。


ゆるゆるしちゃう表情を隠さなきゃ、そう思って冗談を言う。


「青子、二人が仲良すぎて疑っちゃう・・・。一線越えてたり、」


「越えてねぇよっ!!アホ子!!!」


「なっ、アホじゃないもん!!そんなに噛み付かないでよ!!」

余計怪しいよ!!


ホントにそんな風に思ってたら面と向かって言わないっつーの!
冗談に噛み付く快斗の様子に、言葉を返しながら内心思う。


快斗って表情とか目線をよく見て、相手の行動とか思考を読んだりするのに、
どうして青子が思ってることとか分かってくれないのかな。



優が快斗にとって大事な家族なら・・・青子は?


青子は、どんな存在なんだろう。

ずっと聞けずにいる言葉は、今日も青子の心に浮かんで消えた――――――。

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