大学院生の心の騒擾









「・・・馬鹿か俺は。」



彼女を、優を抱きしめたのは、衝動だった。










優の柔らかな指が己の頬に触れたとき、




人のぬくもりの心地よさを不可抗力にも思い出した。

かつて愛した女のぬくもりを、思い出した。




同じように優しく、笑いながら俺に触れたあのぬくもりを。











愚かにも、非道にも、俺は優を通して違う人間を見つけてしまった。

沖矢であるにもかかわらず自身の顔が歪むのを感じ、こんな情けない顔を優に見られまいと、離れることを防いだ。










はたして、それだけだったか。

顔を見られないようにすることと、彼女と密着することは別だ。








思い返すと、あれは縋っていたのかもしれない。

離れていくぬくもりを止めようとして、もう失いたくないと腕に抱きこんで。













俺は誰に縋ったのだろう



優か、




それとも・・・。





あの後、優がこちらを見て聞きたそうにしていたしたけれど、


どう言えばいいのか、その時自身ですらその行動の意味を図りかねていたので

俺は気付かないふりをしてしまった。




「妹として面倒見ているつもりだったんだがな、」




俺は部屋で一人ウイスキーを片手に、心のざわめきを抑えることで手一杯だった。

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