妹が兄に質問します。









沖矢さんとのカレーは、ちょこっとだけ気まずい雰囲気で過ごすことになっちゃった。

もう遅い時間だからって、駅まで送ってもらったけれど、会話は少なくて。




沖矢さんは、最後に困ったように目尻を下げた表情で私の頭を撫でて背を向けてしまった。
あれは、ごめんね、って意味なのかな



沖矢さんが特別寡黙なのか、大人がみんなそうなのかは知らないけれど

私には言葉が足り無すぎて分からないよ・・・、









その日の夜、リビングでゲームをしているお兄ちゃんの背中に寄りかかりながら、雑誌を読んでたけど、


頭に過ぎるのは、沖矢さんに抱きしめられたときのこと。
雑誌の内容なんてぜんぜん頭に入らなかった。




「ねぇお兄ちゃん、どんな時にぎゅってしたくなる?」


「ぎゅって・・・ハグ?」



お兄ちゃんに素朴な疑問をぶつけてみた。あの時沖矢さんには聞くことが出来なかったから。
赤い帽子とヒゲが特徴的なキャラクターを画面で軽快に走らせながらも答えてくれるお兄ちゃん。




「うん、」




なんだよ急に、口ではそういいつつも、

私の様子をみて画面をストップさせてこちらを向いてくれる。




そういうお兄ちゃんの優しさが嬉しかった。



「あー・・・、嬉しいときとか、寂しいときじゃねぇーの?」


照れくさくなったのか、お兄ちゃんはこっちに背を向けて入れておいたジュースを飲んでごまかしてる。



「そっか」

沖矢さんも寂しかったのかな、

なんて私が言ったら、



「ぶはっ、お、沖矢さん!?」


「ちょ、汚いよお兄ちゃん」



お兄ちゃんが口からジュースをふき出した。
近くにあるティッシュで汚れた床を拭う。







「バーロー、優がびっくりさせるからだろっ!」



「ご、ごめん・・・?」


もう夜だからあんまり大きな声を出さないでほしいな、なんて思いながらとりあえず謝る。





「で、なんだよ沖矢さんって。もしかして奴に無理やり抱きつかれでもしたのか?」


「抱きつかれたわけじゃ、」


無理やりって・・・。お兄ちゃんの中で沖矢さんはどんな人になってるんだろう。
首を振って否定すると怪訝そうな顔をして、お兄ちゃんが喰いつく。




「じゃあなんだよ?」


「ま、捲くし立てないでよ」



コントローラーすらも放って詰め寄ってくるお兄ちゃんを押し止めて今日の出来事を話した。
じゃがいもをぶつけてしまったことは・・・絶対笑われるから、秘密にしたけれど。



二人きりで勉強してたのか、とか
どうして俺じゃなくてそいつに教わるんだ、とか別の説教も受けることになっちゃった。



「ほんとにそれだけなんだろうな・・・?」
なんかやらしいこととか、

心配なのか、好奇心なのか分からないけどしつこく聞いてくるお兄ちゃんに、


「無いにきまってるでしょ!沖矢さんはそんな人じゃないよ、」

呆れつつも否定する。




そんなことより、と話を変えて

「ね、どうしてだと思う?」


お兄ちゃんに聞いてみる。

同じ男の子としての意見なら、何か分かるかな、



「どう、って言われてもなぁ。そーいうの、本人に聞いた方がいいと思うぜ。」



確かに性別は一緒でも、違う人間なんだからお兄ちゃんが沖矢さんのしたことに対して正解をくれる訳じゃないのは分かってたけど・・・





「でも、」


「なんとなく、怖い?」


俯いた私にお兄ちゃんは優しく聞いてくる。





「・・・うん。」


「でも気になってんだろ?」


「うん、」


「なら、聞かなきゃスッキリしないだろ?」




それも分かってるけど、

だけど、勇気が出ない・・・。





私の気持ちを察したのかお兄ちゃんが明るく声をかけてくれた。




「だいじょーぶだって!なんかあったら兄ちゃんが力になってやる!」

この快斗様にかかればどんなことも百人力だぜ!!

そんな声につられるように顔を上げれば、お兄ちゃんのいつもの笑顔があった。
おまじないのように、大丈夫、大丈夫って繰り返しながら頭をなでてくれるお兄ちゃん。



お兄ちゃんの優しさに安心しながら、頭を撫でる仕草が、沖矢さんと重なった。

今日の帰り際にした「ごめんね、」のようなのじゃなくて、
またいつものように、安心するように沖矢さんに撫でてもらえるかな・・・。


そんな事を考えながらそっと目を閉じて、お兄ちゃんの手のぬくもりを感じてた。


「ありがとう、お兄ちゃん」
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