妹がさらに悩みます。
昨日まであんなに悩んでたけど、今はそれどころじゃなかった。
学校が終わったら、昨日のことを聞きに行こう、ってなけなしの勇気で決心したのに。
なのに、
今私がいるのは、体育館裏。
登校して靴箱をみると手紙があって、
―お話があります。今日の放課後、体育館裏に来てください―
という内容だった。
宛名は何度見ても黒羽優様と書かれていて間違いなく私宛てなんだと受け入れるしかなかった。
こんな手紙が届いて、先の展開が分からない子どもじゃない。
でも、だからこそ正直頭がパンクしそう。どうしてこんなタイミングなんだろう。
不器用ながらにも丁寧に書こうとしている文字から緊張が伝わって、一生懸命だったことは分かるけど、
差出人が分からないことで得体の知れない雰囲気の方が強かった。
沖矢さんのこと、手紙のこと、二つがいっぺんに来て、もう授業なんてまったく頭に入らなかった。
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体育館裏には、野球部のユニフォームを着た男子がいた。
「急に呼び出してごめん、」
「いえ、」
相手の緊張がこちらにも伝播して私の体も強張った。
そもそも、こうして呼び出しを受けること自体初めてで、どうしていいのか分からないよ。
「あの、俺のこと・・・分かるかな?」
「あ、えっと・・・」
顔には見覚えがあった。
先に学校へ行ったお兄ちゃんの忘れ物をお母さん言われて届けることが何度かあった。
でも、一つ年上の学年の教室に行くのはすごく勇気がいった
知らない人ばっかりで、それに加えてお兄ちゃんは人気者だから、クラスメートに囲まれてちっとも私に気付いてくれない・・・。
そんな時に、よく私に気付いてお兄ちゃんを呼んでくれた優しい人がいた。
目の前の人が、その優しい人だった。
「すみません、名前まではちょっと・・・。でも兄と同じクラスの、」
「そっか、そうだよね。俺、黒羽と同じクラスの山下徹」
会話という会話はしたことが無いし、自己紹介もしてなかったから、本当に顔に見覚えがあるくらいだった。
「山下先輩、」
「うん。て、手紙でなんとなく分かったかもだけど・・・」
きた、どうしよう・・・。
私、なんていえばいいんだろう。続く言葉が分かるだけに、どんな反応をして、どんな返し方をすればいいのかぜんぜん分からない。
「俺、黒羽さん・・・えっと優ちゃんのことが好きなんだ」
だから、付き合ってくださいっ!
そういった山下先輩の声に押されるように、一歩思わず下がってしまった。
嫌悪とかそういうのじゃなくて、どっちかというと戸惑い。
友達の中には、メールとか電話で告白されて付き合い始めた、と言う子も多くて、
そういう人たちとは違って面と向かって想いを伝えてくれる誠実さはすごいなって思う。
でも、それだけ。
「わ、私・・・その、山下先輩のことぜんぜん知らないし、」
真っ直ぐ私を見てくれる先輩に、少し居心地の悪さを感じながら言葉を続ける。
「・・・うん、」
「だから、その、お気持ちは嬉しいんですが・・・」
人から好まれるような価値が私にあるのか自信ないけど、
それでも、山下先輩が私のことをそう思ってくれたことは嬉しいし、その想いを伝えてくれたことを否定したいわけじゃない。
だから、傷つけないように、やんわりと断りたいな。
「優ちゃん、好きな人いる?」
山下先輩の唐突な質問に戸惑ったけど、とりあえず否定する。
「え?あ、いえっ、」
居ませんけど、
一瞬、沖矢さんが過ぎって、私自身びっくり。
何で今思い出すんだろう。昨日、ずっと考えてたからかな・・・。
逸れそうになる思考を慌てて戻して、目の前のことに集中する。
「じゃあ、お試しでもいいからさ・・・ダメかな?」
「お試しって、」
「俺は気にしないし、これから俺のこと知ってもらって、好きになってもらえたら嬉しいし。」
山下先輩の言ってることが上手く理解できなかった。
好き同士だから、付き合うんじゃないの?
そんな風に付き合っても、きっとお互いに傷ついてしまうと思うのは私だけなのかな。
「でも私はっ・・・」
私の中で、答えは出ているし、それを先輩に伝えるだけなんだけど・・・
なんていったらいいのか、どう伝えたら間違いじゃないのか、私には分からなくて言葉が続かない
「返事はすぐじゃなくていいんだ、今度でいいから。・・・いい返事、待ってる。」
「ま、待ってくださいっ」
山下先輩が背中を向けて歩き出したから、焦って声をかける。
けれど先輩は振り向いてくれない。
「ごめん、部活あるから。今日はありがとう、」
返事はまた今度、そう言って走って行ってしまった。
なぁなぁにしてはいけないことは分かっていたのに、結局そうなってしまった。
先輩が、私のNOの返事を拒絶してることは途中の態度で分かったけれど・・・。
でも、じゃあ私はどうすれば良かったのかな。
誰かに相談したくなったけど、青子ちゃんやお兄ちゃんは山下先輩とクラスメートだから、
二人が私のせいでクラスメートと気まずくなるなんて嫌。
だからといって、同い年の友達に相談しても、付き合ってみれば?なんて背中を押されそうで怖い・・・。
私は自然と工藤邸に向かって駆け足になっていた。
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