妹がテストを乗り越えました。







週末って約束だったけど、
テスト週間はいつもより学校が早く終わるからって、期間中は毎日勉強を見てくれた沖矢さん。


だから、やっと全教科の解答用紙が返ってきた今日、

沖矢さんに一秒でも早く報告したくてずっとうずうずしてた。






心がうきうきして、工藤邸に少しでも早く着きたい思いで駆け足になった

扉を開けて出迎えてくれた沖矢さんに、私は挨拶もそこそこに



「沖矢さん!沖矢さん、見て見てっ!!これっ!!」




じゃーん!各教科のテストの解答用紙を突き出した。




「どれもいい点数ですね、」

頑張りましたね、と頭を撫でてくれる沖矢さん。


私より大きな沖矢さんの手で、そっと撫でられることが最近すっかり癖になって、
そうされるととっても嬉しい。


そっとその手の優しさを感じながら、なんとなく気になって沖矢さんをのぞき見ると
思わず目が合ってしまって顔が熱くなる。




「どうかしました?」


「い、いえっ!」



自惚れかもしれないけれど、すっごく穏やか目をしてた気がしたから。


私のそんな様子も気にしてない沖矢さん。
立ち話もなんですから、と言って中へ入るように促されて、後をついていく。


椅子に腰を落ち着けて、さっき沖矢さんが入れてくれたコーヒーに口をつけた。

一息いれたとき、沖矢さんが私に声をかけてくれた。



「テストお疲れ様でした、」


「ありがとうございます!沖矢さんのおかげで問題がすらすら解けました!」



テストに向かうまでは、教えてもらったんだからいい点取らなきゃってちょっとプレッシャーだったけど
いざ始まったら、スラスラと解けることに自分でも、とっても驚いた。



苦手な数学はテスト返却の際に先生に「頑張ったな、」なんて一言も貰っちゃった。

沖矢さんは結構なスパルタだったけれど、今回の結果を見たら頑張ってよかったって思えて、
今の私の気持ちが伝わるように心を込めてお礼を言った。



「大したことはしていませんが、優さんのお力になれて良かったです」


いつもより私がはしゃいでるからか、くすくすと笑いながら応じてる沖矢さん。

大したことしてるのになぁ。それをちっともひけらかそうとしないのが格好いい。




一時気まずくなってしまったけど、二人でちゃんと言葉にしあって、伝え合えたから、今はそんな事は無い。
どこか一線引かれてるような沖矢さんとの距離もそれ以来、縮まった気がする。



それに、もう一つの悩みだった告白の件も、沖矢さんのアドバイスのおかげでしっかり断れたし、
今はもう、とにかく充実してるなって気分。



「それで、あの・・・お願いがあるんですが」


私は恐る恐る、ずっと考えてた事を切り出す。


「おや、ご褒美のおねだりですか」

私の言葉に少し驚いたような口ぶりをする沖矢さんだけど、顔は笑顔のままで、
あ、これはちょっと意地悪な時の沖矢さんだ、なんて思った。


それでも、どうしてもお願いしたいことだったから、諦めずに聞いてみる。


「だめですか・・・?」


こうして私から誰かにお願いをすることはあんまり無いから、ちょっと緊張して。
そのお願いの相手が沖矢さんだからさらに緊張しちゃって。

そーっと覗くように沖矢さんを見る。


「っ、・・・いえ、僕に出来ることなら」


ちょっぴり間が空いたのが少し気になったけれど、沖矢さんの了承の返事がもらえた
嬉しくなって、今日はより一層いい日だな、なんて私が思ってると沖矢さんが続けて口を開いた



「せっかくの優さんの可愛いおねだりですから、」




その言葉を聞いて私の体が熱くなる。
以前に素直に伝え合うことって大切だって学んだのは確かだけど・・・


沖矢さんのこういうストレートな言葉は心臓に悪いよ、
赤くなった顔を手で隠しながら沖矢さんを見るとやっぱり意地悪な顔をしてて、

まんまとしてやられたことに気づいて、私はちょっと悔しくなる。



「そ、そういうのいらないですっ」

ちょっと責めるような視線を沖矢さんに送って言うけど、涼しい顔して、



「ちょっとした仕返しです、」


と言われてしまった。





仕返しって言われても・・・
私は何もしてないはず、なんて考えてると、



優さんにはちょっと難しいかもしれませんね、なんていわれて苦笑いされた。

じーっと見つめて、沖矢さんが教えてくれるのを待ってみたけど
私の視線なんてちっとも痒くないみたいに、いつもの笑顔を返されちゃった。


沖矢さんって誤魔化すのが上手いなぁ。お兄ちゃんだったら根負けして教えてくれるのに・・・
ちょっと負けた気分




「それで、お願いとは?」

逸れた話を沖矢さんが戻して私に聞く。




私は意を決して、伝える


「文化祭に、来てほしくて・・・」




「文化祭ですか、」


私の言葉をなぞる様に言うその声だけじゃ、

沖矢さんがどんな気持ちなのかわからなくて。



静かなところの方が好きそうな沖矢さんに、
高校、それも文化祭に来て、というお願いはやっぱり無理かな・・・

私はちょっと不安になった





「私のクラスは喫茶店をやる事になって、お店のメニューに私の考えたケーキが採用されて・・・、」


えっと、その・・・と、
食べてほしい、という言葉が急に図々しく思えて沖矢さんに言えない


「優さんのケーキですか、それは食べてみたいですね」


そんな私のいいたい事が分かったのか、言葉を返してくれる沖矢さん。
それは、ついつい悪い方向で考えていた私にとってすごく嬉しい言葉。


「ほ、ホントですかっ」


思わず前のめりになって、沖矢さんに聞くてしまう
疑ってるわけじゃないけど、今の言葉がうかれた私の幻聴のような気がして。


「えぇ、ぜひ」



沖矢さんの一言一言に、すごく嬉しくなって、ほかほかして、いつもの私じゃないみたい。
でも、そんな自分が嫌なわけじゃなくて。

今、勉強や学校行事がこんなに楽しいのだって沖矢さんのおかげ。

沖矢さんに会えて良かった、私は改めて思った。





「約束です!」


「はい、約束です」



私が差し出した小指に、沖矢さんは同じように小指を出して絡めてくれた
お願いって言ったけど、ホントはただの私のわがまま。

高校生活初の文化祭に、沖矢さんが来てくれたらきっと良い想い出になる気がしたから。



絡まった沖矢さんの指を離すのが少しだけ寂しくて、私は絡めたときよりもゆっくりと指をほどいた
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