妹が大学院生とお菓子作りをします。3.5







「すみません、送っていただいて…」


「いえいえ。荷物が多くて大変でしょう?」

むしろ来るときも迎えに来るべきでしたが、気が利かずすみませんでした。


こうして助手席に乗せてもらって、

家まで送ってもらうことに私が申し訳なく感じて謝ると、

逆に昴さんに謝られてしまった。


「そんなっ、気が利かないだなんて!」

とっさに昴さんの言葉に首を振る。


「まぁ、気づいたところで連絡の取りようもなかったんですが、」

そう言われて、確かに連絡先を好感してなかったことに気付いた。


「いつも次回のお約束をしてたので、今まで連絡先を交換する必要がなかったんですね」


「そうですね。いつもの流れが自然と出来ていましたね。」


携帯電話などない時代ならいざ知らず、

今時、連絡先すら交換せずに約束をするなんて今思えばなんだかおかしい。


「ふふふっ、私たちってちょっと変わってたんですね。」

なんて言ったら、

「おや、僕もですか。」

と昴さんがおどけて言うので、

「昴さんたら、ひどい、私だけ変人扱いだなんてっ、」


「変人だなんて、そんな。面白い人ではありますけどね優さんは。」


「同じような意味じゃないですか…。」


内容は大したことではないけれど、

リズムよく会話のキャッチボールを昴さんと続けるのが楽しい。


ふふっ、

くすくす、


どちらともなく車内で笑い声が広がる。





「冗談はさておき、連絡先を交換しませんか?」


「え?」


昴さんが提案してくれたことに驚いてしまった。


「優さんが嫌でなければ、で結構ですよ。」


私の反応をみて昴さんが言葉を加えたけれど、


「いいえ!嫌じゃないです!」


誤解を避けるべくすぐに否定する。


だけど、

いいの、かな。


きっと私はもっと連絡を取りたくなってしまうと思う。

それに、なにかと頼ってしまうかもしれない。



でも私と違って昴さんは大学院生できっと普段は忙しいだろうし…、


迷って、



私の言葉を前を見て運転しつつ待ってくれている昴さんを見る。



「邪魔になったりしないですか…?」


「大丈夫ですよ。タイミングによっては連絡が取れないこともあるかとは思いますが、」

問題ありませんよ。




日が落ちてしまって、

すっかり暗くなってしまった辺りに、街灯が煌々と道を照らす。


その半面、車内は薄暗くて、助手席からでも、運転席の昴さんの表情は少しばかり見えにくかった。



それでも、


「優さんが連絡先を交換してくださると、僕も嬉しいです。」



赤信号で停止し、ゆっくりとこちらを向いて柔らかく笑ってくれた昴さんの表情は、

なぜか不思議なくらいはっきりと見えた。




「っ、じゃあ、お願いします。」


初めて目にした、柔らかな表情。

胸がぎゅっと苦しくなるような切なさすら感じた。


交換してくれたら嬉しいと言われたら

私はもう断るすべなんて持ち合わせていなくて。


そっと自分の携帯を昴さんに差し出した。


「あとで優さんから僕に連絡いただけますか?」
登録しますので。


「わかりました。」


さっそく私の携帯に連絡先を登録してくれている昴さんを横目に、

早まった鼓動を落ち着けるように、胸に手を当てて、

そっと窓の外を見る。


いつのまにか見慣れた街並みだった。




家はもう、

すぐそこだなんて、分かりきっているけど。





この赤信号が少しでも長く続いたらいいななんて、

考える私はやっぱり少し変なのかもしれない。

CLAP!

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