妹に異変がおきます。






「あれ、」

「どうかしたー?」

美香ちゃんから声を掛けられ、

机の中と鞄の中を行き来させていた視線をあげて、
そちらを向く。

「次の授業の準備しようかと思ったんだけど、
ノートが見つからなくて・・・」

「珍しいね、優が忘れ物なんて。」


「うーん…おかしいなぁ、」

仕方ない。今日はルーズリーフで代用しよう。





その日、家に帰ってもノートは見つからなかった。

そのうち見つかるかもしれないと気持ちを切り替えた。










――数日後――



「あれ、タオルが…」

「忘れたの?私、予備あるから使う?」

「ありがとう、美香ちゃん」

そんな会話をしながら、今朝のことを思い出す。


確かに鞄の中に入れた。

忘れ物をしないように、もう一度鞄の中身をチェックだってした。



学校について体操着をロッカーへしまう際にも、
鞄にタオルが入っているのを見てる。

その時、タオルは鞄にしまったままにしたことも記憶に残ってる。


なのに、タオルがない。

もしかして…、と一抹の不安が過る。





ううん、いくら何でも考えすぎだよね…。



幸いタオルぐらいなら大したことないし。

そう思って、今回も気持ちを切り替えた。


 











その日を境に、

毎日少しずつ何かが失くなっていった。


消しゴム、リップ、ハンカチ、くし、シャーペン、手鏡

ここまでくると単に物を失くしたのではなく、盗られていると否が応でも気づく。


でも誰が?

正直全然心当たりがなかった。

トラブルに巻き込まれるようなこともなく、クラスの人等との人間関係も良好だと思う。



唐突に行われるようになった行為に、どうしていいのか分からなかった。



だから、

ちょっとした興味本位もあるけれど、思い切って行動してみることにした。









「あ…教室に忘れ物しちゃった。美香ちゃん、先に行っててくれる?」

次の授業のために化学室へ移動しているときに、さりげなく美香ちゃんに切り出す。


「私も一緒に行こっか?」

「ううん。大丈夫!先生に少し遅れるって伝えてくれると嬉しいな、」


本当は忘れ物なんてないから、美香ちゃんに嘘を吐くのは心苦しいけど、

一人で教室に戻るためには仕方がないので、心の中で謝っておく。


「りょーかい!優は焦って転ばないように気を付けなよー?」


「転ばないよ〜、もうっ!」


優しい美香ちゃんの声掛けを受けながら、教室へと踵を返す。



移動教室等で教室に誰もいなくなる状況は物を盗るのに打って付けだと思う。


私のものを盗る誰かをこの目で見ることで、

その人の目的などが分かればいいけど…。



ガタッ


教室から音が聞こえて咄嗟に屈んで息を潜める。

幸いにも少しだけ開いていたドアから部屋の中をのぞくと、


予想通り、自分の机の中を漁っている人影があった。



そんな……、




目の前で、私の物を盗む人間を直視するのはやっぱり衝撃が大きかった。

どうして、と聞いてしまいたくなりそうで、

その人の見えない心の内を覗いてしまったようで怖くて、


驚きと衝撃に震えそうになる自身の手をぎゅっと握りしめて、

見つかる前にそっと私はその場を去った。












―――数日後


見知らぬ手紙が家に届くようになった。


宛先は私の名前が書かれているけれど、差出人が書かれていない封筒には、

何枚もの写真が入っていて、すべて私が写っていた。


美香ちゃんと教室で話しているところや、

夜にお兄ちゃんとコンビニに行った時のもの、

青子ちゃんと買い物に行った時のもの、

登下校の時のもの、

昴さんに会いに行った時のもの、

とくかく沢山あった。



これだけの時間、誰かに見られていて盗撮されていたことに微塵も気が付かなかった。

怖い。

気持ち悪い。

どうして。

どうやって。

どうしよう。


背筋が凍るような感覚に陥った。


「優ー!夕飯だぞー」


「はーい!今行くー」

お兄ちゃんの声に、返事を返し慌てて写真をまとめてゴミ箱へ捨てる。


見られてはいけない。お兄ちゃんには。


私の問題にお兄ちゃんを巻き込めない。

自分で、どうにかしなくちゃ。


震えてる手をぎゅっと握って自分を鼓舞して、

何事もないようにご飯を食べることで今は精いっぱいだった。


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