妹が兄に報告します。










「ただいまー」


「おー、おかえり優」


リビングのソファーに座ってテレビを見るお兄ちゃんが私を迎えてくれた。

お母さんは今週パリに旅行に行っていて私とお兄ちゃんだけ。





「今からご飯作るね」
もうちょっと待ってて、とお兄ちゃんに声をかけてキッチンに向かう。


「魚はなしだかんなー!」


「はいはい、」


喧嘩した際に、お兄ちゃんの弱点でもある魚をふんだんに使った料理を出したことがあった。


お兄ちゃんはそれが堪えたみたいで、私が料理をする前にはいつも一言念を押すようになった。



それと喧嘩してもご飯の前には仲直りするのが二人の自然な決まりにもなった。







最近お気に入りの音楽を口ずさみながら切った食材をフライパンに入れる


そんな私の様子をみたお兄ちゃんが不思議そうに言った




「なんかあったのか・・・?」


「んー?いいこと!」


「そりゃおめぇ、良いことなのは分かるけど」
そこまでご機嫌なの珍しいだろ、



背を向けて会話していたけれど、

手を止めてお兄ちゃんを視界に入れる。







「マジックしたの!」


「・・・だれが?」


「私よ、私!」



「優がっ!?」



驚いたお兄ちゃんがテレビそっちのけで詰め寄ってきた。



まぁ、私のマジックに関する不器用さはお兄ちゃんもお母さんも知っているし、

今まで一緒に練習してくれていたのもお兄ちゃんだから


急に私がマジックが出来るようになったら驚くよね。




「どんなマジック?」


「ティッシュを消すマジックだよ」

私は沖矢さんに教わったマジックを説明した。



「なるほど・・・」

確かに、一人じゃ無理でもアシスタントが居ればシンプルだけどすごいマジックができるな、


なんて沖矢さんの考えたマジック感心してるお兄ちゃんに私のことではないけれど、どこか誇らしくなった




「すごいよね、沖矢さん!」


「なんで優が胸張ってんだよ、・・・その沖矢さんってマジシャン?」


「ううん、東都大の大学院生だって!かっこいい人だったよー」


調理を再開しながらお兄ちゃんに答える


「え、そいつ男かよ!?」



なんだか勝手に女の人と勘違いしてたお兄ちゃんが再度私に肩を掴んで詰め寄ってきた。



「ちょ、ちょっと危ないよっ」


「わ、わりぃわりぃ」


包丁を持ってたので危うく手元が狂って自分の手を切るところだった


距離を置いてくれたお兄ちゃんにほっとする














「・・・よかったな優」





「うん、ありがとう快斗お兄ちゃん」




お兄ちゃんは後ろに居たから顔は見れなかったけれど、

聞こえた優しい声から自分のことのように喜んでくれていることが分かった。



友達によくブラコンだといわれるぐらいには、

私もお兄ちゃんを好きだけど、お兄ちゃんも大概だなぁ・・・




「ふふふっ、」


「な、なんだよ…」




「んー、秘密!」



完成した料理をお皿にのせてお兄ちゃんに渡してテーブルへと促す


教えろよ、

とすねた顔をするお兄ちゃんに答えず私は笑顔だけを返す





言葉で伝えるのはどうにも恥ずかしいから、秘密



でも料理の味から私の気持ちをお兄ちゃんが感じ取ってくれたらいいな、


なんてひっそり思った
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