妹がコーヒーを頂きます。







最近、怪盗キッドとしての活動が盛んになった


だからお兄ちゃんは学生生活に、怪盗業にと大忙し。




それに加えて、キッドキラーと呼ばれる少年、

コナン君がキッドの行く手を阻んでいるらしい






事前に寺井のおじいちゃんと計画を立てていても最近は臨機応変さが目立ってて

怪我もしている





今までよりも、

ずっとずっと危険でとにかく心配なのに、




「へーきだって!」


「でも・・・」


心配しすぎなんだって、そういって頭をなでてくるお兄ちゃんにこれ以上はいえなかった。


わがまま言って疲れてるお兄ちゃんを困らせたいわけじゃない




ただ、何も出来ない私がもどかしいだけ





















――――――――







部屋に居ても考え事は堂々巡りしてきりがなかった


少しでも気分を変えようと目的もなく歩いていたら見知った顔を見つけた



「あ・・・」


「おや優さんじゃないですか、こんにちは」


そういって声をかけてくれたのは沖矢さん。



なんだか、この人を見て今までたまっていたものが溢れる感覚がした



「ふぇ・・・うぅっ」


「え、ちょっ、」



挨拶も返さず、急に泣き出した私に慌てる沖矢さん。


落ち着いたイメージの沖矢さんが慌てるところは貴重に思えたが、そんなことでは涙は止まらなかった
















案内されるがままに、沖矢さんがお世話になっている工藤邸にお邪魔することとなり、

出されたコーヒーを飲んで漸く私は落ち着いくことができた。





「ご、ごめんなさい・・・私、」


「少し驚きましたが、気にしないでください」

何かあったんですか?




いきなり顔を見て泣き出した失礼な私をとがめることなく、

心配の言葉をかけてくれる沖矢さん






やんちゃで、いたずらっことよく称されているお兄ちゃんとは正反対な人柄だけれど、

沖矢さんの優しげな雰囲気はどこかお兄ちゃんと重なるところがあって自然と頼りにしてしまう私が居た





もしかしたら、沖矢さんには妹など下に兄弟がいるのかもしれない


こんな私に手を焼いてくれるのもきっとそういった影響だ。

じゃなきゃ、会っていきなり泣く女の子なんて鬱陶しいこと極まりないもの。








「私のお兄ちゃんが、最近よく怪我をして帰ってくるんです・・・。理由は、その・・・ちょっと分からないんですけど・・・」


優しい沖矢さんに、嘘を吐いた



本当は分かっているけど、言ってはいけないことだから





「お兄ちゃんは平気だって言うけど、私、不安で・・・。お兄ちゃんの役に立てるようなことも出来ないし、」



「マジックも、お兄ちゃんのように人を笑顔に出来たらって思って・・・。いつも心配ばかりかけてるから安心させたくて、」





「優さんは、そのお兄さんがとても大切なんですね。」

まとまりもなく、口から零れ落ちるように話す私に

ずっと聞いていてくれた沖矢さんはふと、そんな事を言った。



「話を聞いていると、とても大切に思っていることや、お兄さんの為に何かしてあげたいという思いが伝わってきますよ」





そう感じてくれたのなら嬉しい。

だって、本当にお兄ちゃんのことは大好きだから。






でも、




「でも、私、何も出来なくて・・・」



「いきなり大層なことしようとしなくていいと思いますよ。優さんには、優さんの良さがあります」




「私の、良さ・・・?」


えぇ、そう相槌を打った沖矢さんの笑みがどこか深くなったように感じた。

けれど私には沖矢さんの意図が読めなくて戸惑った





「優さんには、柔らかい雰囲気と愛らしさがあります。この一杯のコーヒーのように暖かで落ち着く存在だと、僕は思います」




「っ、」

愛らしい、なんて初めて言われた。


年上の、それもとても素敵な人に。



顔が、体が一気に熱くなったのは気のせいじゃなくて、


恥ずかしいような台詞をいっているのは沖矢さんのほうなのに、私は沖矢さんの顔を見ていられなかった。






「お兄さんはきっと優さんのそんな良さに元気を貰っていると思いますよ。」



「そ、そうでしょうか・・・」



「きっと。僕も妹が居まして、優さんとはタイプは違いますが・・・まぁ、小さい頃はそれなりに可愛かったですよ」




私がこんなにドキドキしてることを知ってか知らずか何事もないように話を進める沖矢さんには、やっぱり兄妹が居た。




「だから、最初の一歩として優さんはお兄さんの帰りを笑顔で迎えてあげてください。」




私にはよくわからないけれど、同じ妹を持つお兄さん、沖矢さんの意見なんだからきっとそうなのだろう。




「わかりました・・・」




「いい子だ、」


沖矢さんの声とともに、頭にはふんわりとした感触。

優しい手つきでなでられているのが分かって、どこかに行っていた顔の熱がぶり返すのだった。




初めて会ったあの日も、泣いた私にそっと頭を撫でてくれたなぁ・・・





「頭をなでるの、癖、なんですか・・・?」

この前もそうでしたよね・・・?と付け加えて沖矢さんに聞いてみる。

妹がいるなら不思議じゃないかな、なんて勝手に推測してみる






「・・・いえ、初めて言われましたね。もしかして嫌でしたか?」

失礼しました、と続ける沖矢さんに私はあせって首を振る





「そんなっ!嫌だなんて!・・・あの、むしろっ、」


咄嗟に否定の言葉を口にしたために、



「むしろ・・・?」


言わなくていいことまで、口にしてしまった。









沖矢さんが答えを求めるように顔を近づけて言葉の先を促す。


なんでもない、とは言いづらい状況になってしまって・・・どうとでもなれ、ともはや投げやりに言葉をつむいだ。







「嫌じゃなくて、その、むしろ・・・う、嬉しいなって、」




「っ、」





思い切って言ってしまったけれど、やはり恥ずかしくって・・・


笑い飛ばしてくれたらいいけれど、返ってきたのは沈黙で、

こちらから顔を窺えないようにそらしてしまった沖矢さん





ちょっとおこがましいことを発言をした私に呆れたのかもしれない




「あの・・・ごめんなさい、変なこと言って・・・」




「・・・いえ、」

コーヒー入れなおしてきますね、




そういって奥に姿を消してしまった沖矢さんに、私は先ほどの自分の発言を反省する。





余計なこというんじゃなかった。





沖矢さんに会っては泣き、


その上変なこと言って困らせるなんて





「優さん、コーヒーおかわりしますか?」



「え?あ、いえ大丈夫です、」


いつの間にか沖矢さんが戻ってきていた。



ついつい考え込んでいたことに漸く気付いた

昔から、一度考え出すとマイナスの思考はどんどんマイナスになっていく癖があった



お兄ちゃんにも咎められるし、私自身も自覚はあるけれど、

無意識に頭の中でぐるぐる考えてしまうせいで改善には程遠いけど。







「先ほどはすみません。気にしないでくださいね、」



「私が変なこと言って呆れたのかと、」


不安になっていたことを尋ねると沖矢さんは透かさず返してきた




「そんなことはありません。僕がただ・・・いえ、何でもありません。」



言葉の先が気になって見つめたけれど、沖矢さんはその続きを口にしてくれなかった。




「続き、教えてくれないんですね」

言外に、私には言わせたのにずるい、といった意味を含ませる。




けれど、
そういった追求には慣れているのか沖矢さんは困った様子もない

「挨拶しただけで優さんに泣かれてしまいましたから・・・そのお返しです。」




本当にずるい。

その話を出されてしまっては、私は決まりが悪くて深追いできない。




大人な沖矢さんはこうやって人との関係性をそつなくこなしているのかと思うと、
似ているようで、お兄ちゃんとはぜんぜん違う。

なのに、ずっとお話していたいような感覚はなんなのだろう。




悩みはひとまず解決したはずなのに、

また一つ小さな、それもどこか温かく感じる疑問が芽生えた。

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