とある妹
「おや、蘭さんに園子さん。こんにちは」
「「安室さん、こんにちは」」
遊んだ帰りだろうか、ポアロに出勤すると顔見知りの女子高生たちがテーブル席にいた。
この二人の組み合わせは、なにも今日だけじゃない。
相変わらず仲がいいのだな、と内心で呟いた。
するとズボンの裾を引っ張られる感触があり、足元を見ると
淡い桃色のワンピースに身を包んだ可愛らしい少女がいた。
「君は…、?」
「あ、優ちゃんは園子の妹なんです」
小さな少女がずっと見上げているのは大変だろうから、片膝をついて目線を合わせやすくすると、
蘭さんから紹介を受けた少女は、恥ずかしがり屋なのかほんのりと顔を赤くした。
「そうなんですか、はじめまして。僕は安室透といいます。」
「とーるくん?」
幼い子にも理解できるように言葉を選びながらこちらも自己紹介をする。
舌足らずでオウム返しのように名前を呼ぶ姿には愛らしさを感じて頬が緩む。
癒しだ。
「えぇ、あってますよ」
くりくりとした瞳はずっとこちらを見つめたまま。
「とーるくんはおうじさま?」
「え?」
可愛らしい少女の口から、予想外の言葉が出てきて、思わず聞き返してしまう。
「あー、気にしなくていいから。この子そういう年頃なんです、安室さん。」
「あはは…、」
姉の園子さんは妹の不思議発言には慣れているようで、動じることなく受け流していた。
まことさんという人からのメールに夢中のようで、視線もこちらには向いていないほどだ。
隣の蘭さんと目が合って、お互いに苦笑いする。
イケメンや王子様への食いつきが良いのは、やはり姉妹だからじゃないのか、と二人で秘かなアイコンタクトをしていた。
「おねーちゃんがいってたの。キラキラしたひとがおうじさまだって!」
ほらみろ。姉の影響だ。なんら想像に難くない。
「僕がキラキラ?」
変な影響を受けてしまっている妹でも、
その言葉の通りキラキラを表現しようと体を一生懸命動かしているさまは微笑ましい。
だが僕のどの辺がキラキラなのか言っていることを理解するのは難しくて。
問いかけると、
「うん!かみのけ、とってもきれい!」
「ありがとうございます。優ちゃんもお洋服がとっても素敵で、お姫様みたいですね」
ようやく髪の色合いをキラキラと表現しているのだと気づかされた。
容姿を褒められることはあまり珍しいことではない。
けれど嘘を知らない子供の言葉は、そこらの女性に言われるよりもうれしいものだ。
お返しとばかりに、優に褒め言葉を返すと
「ほんと!?優、うれしい!」
自分の両頬に紅葉のように小さい手を当てて、きゃーとはしゃぐ少女。
その愛らしさに思わず、優の頭をなでる
するとさらに顔をふにゃっと崩した笑顔をこちらに見せてくれた。
「いつか優のこと、むかえにきてね?」
「迎え?」
「おうじさまは、おひめさまをむかえにくるものなの!
優のおうじさまは、きっととーるくんだから!」
そう言ってのけた優
どんな根拠があってそういうのだろうか。
どんな思考回路でそんな答えが出たのだろう。
そういった疑問が浮かんでしまう自分はもう子供心を忘れてしまった大人なのだとつくづく思う。
柔軟な思考や想像力が推理にしか働かなくなったのだろうか。
「…どうしてそう思うんですか?」
「だってね、とーるくんをみたとき、優どきどきしたんだもん!」
だからね、
「うんめーなんだよっ!」
運命か。
なかなかロマンチックな言葉を使って大人を口説くこの少女は、将来大物になりそうだ。
まさしくあの姉にして、この妹だ。
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