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明美から届いた誘いのメールに、


「ぜひ!明美さんとまた会えるのを楽しみにしてます」

と返信して携帯をしまう。




出会いはとっぴなものだったけれど、優にとって大事なものになりつつあった。

そんな彼女から、妹へのプレゼントを一緒に選んでほしい、と言われ再び会う約束を取り付けたのだ。





プライベートが充実し始めているのだから、

仕事のほうもどうにかしようと、今日ここへ来たのだった。



優は目の前の階段を上がり、事務所の扉を開くのだった。


「こんにちは、」

「優さん!こんにちは、どうしたんですか?」


毛利探偵事務所を訪ねた優に、蘭はソファーへ案内しつつも推察し、


もしかして・・・とつづけ、


「お父さんに依頼ですかっ!?」



「優さぁぁあん!この毛利小五郎がどんな難事件も解決してみせますぞ!」


優は小五郎の熱いアピールに苦笑いを返しながら首を振る。





「い、いえ・・・」

毛利親子はとても純粋に瞳を光らせて優を見るため、

そんな彼らに依頼ではないと否定することは少々心苦しいが本当に違うのだからしょうがない。





改めて本題をきりだす。

「・・・コナン君、いますか?」



「え?」


「あのガキが麗しの優さんに何かしましたかっ!?」



意外な人物の名前に二人は目を丸くして優を見た。


「あぁ、いや・・・以前に、いつかミステリー小説について語ろうねって話をしたので。」


今日はそれを目的に、



と、一応用意しておいた建前を二人には伝える。





「奇遇ですねっ!私もミステリー小説が大好きなんですよっ!!」


そんな小五郎の言葉にすかさず蘭が


「お父さんの趣味は麻雀でしょう!」

嘘つかないのっ!と、父親をたしなめる。


始まった親子漫才を見守りつつ、周囲を見渡してコナンを探す。

優がいない、と思った直後、事務所の扉が開いた。





「蘭ねーちゃん、携帯鳴ってたよ、」


蘭の携帯を持ってちょうど良く現れたのは優の探していたコナンだった。




「ありがとうコナン君!園子かな・・・?」

蘭が受け取った携帯を気にしつつ、

「コナン君にお客様が来てるよ」


「へ?」


視線で促されたコナンは、ようやくソファーに座っている優の存在に気付く。


「こんにちはコナン君」



「え?優さん?僕に、お客さんって・・・、」



くりくりとした目がさらに丸くなって驚きを素直に表していた。

優はそんなコナンに笑顔で頷きを返すのだった。

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優は今、コナンと二人きりの空間にいる。


ミニ クーパーにコナンを乗せて車を走らせていた。



ボディはエレクトリック・ブルー、ルーフはホワイトの可愛らしい車は

優がレンタカーを使用していることをどこからともなく耳にしたジョセフとスージーQからの贈り物であった




誰が敵であるか分からないなか、ファミレスや喫茶店で話すなどという無防備なことは出来ない。

普段だったら高価すぎる夫妻の贈り物は送り返すのだが、


今回はこの少年と誰にも邪魔されない空間として最適なこの車がとてもありがたかった。



「ねぇ、優さん、どこにいくのー?」

僕知ってるよ、この車ミニ クーパーって言うんだよね!



などと可愛らしい様子を見せている少年の目は、

言葉とは異なって鋭く光っていた。



「・・・・・・目的地よりも、気になることがあるんじゃないかしら?」


優は意味深な言葉をコナンへ返し、助手席にちらりと視線を送る。

これまで物事が停滞していたのは、優自身が受身であったせいだと、
明美との出会いを通し、前向きな気持ちを持った今気付けたのだった。

優自身が行動を起こすことは、リスクを伴うことだろう。

しかし、
何もしないこと、受身でいることが安全であるという確証はない。



今日、優は賭けに出ることにしたのだ。

怪しんで、怪しまれる、そんな関係性を築いてしまったこの少年と真っ向からぶつかってみようと。

凶とでるか、吉とでるか・・・


答えとしてこの行動が正しいのか、優にも、きっと誰にも分からない。
だが、優は自分の感を信じることにしたのだ。信じたいと思ったのだ。





「僕、何のことだか・・・」



「蘭ちゃん、」
とってもいい子よね、


優はナイトにとって大切なお姫様の名前をだし、揺さぶりをかける。


蘭、という名前をきいたコナンは小学生には到底見えない眼光であった。
ナイトと言うのににふさわしい様子に、優は自然と口角を上げた。

あてもなく走らせていた車を、ハザードをつけて路肩に停車させる。

話は、ここからだ。
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