12
コナンが零してゆくヒントを拾っても未だ確証には至らない。
それほどに彼には謎があった。
何を怖れ、何を警戒し、
優を何者と勘違いしているのか、優はまだ分からずにいるのだった。
双方とも口を閉じ、目をそらさない。
否、そらせずにいる。
何も悟らせないように、小さなことも見逃さないように。
コナンも優も微動だにしなかった。
沈黙がのさばり緊張が辺りを支配し始める。
その流れを止めたのはコナンだった。腕時計のフタの部分を開けて構えた。
優は何が起きるか分からないながらにも、嫌な予感がした
咄嗟にコナンの腕を掴みあげる
「うぁっ、・・・くっ!」
痛みでゆがむ顔には、隠すことも忘れた焦りが見えた。
「無駄な抵抗はしないでくれる?・・・その優秀な頭でもっとマシなこと考えなさい」
時計のつけているコナンの左腕を拘束したまま優は覗き込むように顔を近づけて告げる
対するコナンは状況に呑まれないよう強い瞳で優を睨み返す。
「いつだ、」
「いつから俺の正体に気付いてたっ!?」
大人顔負けに推理をしていた少年の姿は見る影もない。
所詮は子ども、ということか・・・?
コナンの勘違いに乗じて彼の秘密を暴こうとしているも、彼の様子に少々の戸惑いが生まれる。
優はゆっくりと瞳を閉じて心を律する。揺らいではいけない。
今は確証が必要なのだ。
開いた瞳でコナンを映して、知りもしない彼の正体を知ったように語る。
こんな嘘が通じるのも、それだけコナンが追い詰められ冷静さを欠いているからだろう。
「・・・知りたい?」
「・・・・」
沈黙が話の続きを催促し、優は口を開く。
「江戸川コナン、なんて上手く装ったものね。」
正体を隠しているのなら、おそらく偽名を使っている。
これはカンであったが否定の言葉はコナンの口から出なかった。
優がずっとコナンを怪しんでいたのは、そもそも彼が年に相応しくない推理や行動をするからであった。
だからこそ、偽名を使ってまで"正体"を隠しそれを優が暴こうとすればするほどに焦る、
想像以上に何かを背負っているコナンに優はずっと困惑していた。
「けれど、演技が下手。まるで小学1年生には見えないわ」
今は、そんな心持を欠片も表に出すことは許されない。
心理作戦は、仕掛けた側の心さえも疲労させていくものだと身をもって感じているのだった。
「・・・・あんたには言われたくねぇーよ、」
コナンのせめてもの虚勢だろうが、優は素でムカつきを覚えていた。
目暮警部の質問に対してたじろいだあの時の優の事を指しているのだろう。
言われなくても自覚はある。余計なお世話だ、と言葉にしないながらにも思うのだった。
「口の減らない子。この場を切り抜ける打開策は見つかった・・・?」
「バーロー、どう見てもお手上げだ」
「今の俺ならそうそうに居場所を突き止められないと高を括っていたからな。」
俺の負けだ、好きにしろよ・・・
そういって体の力を抜いた少年の表情は眼鏡の反射に隠れて窺えない。
再び訪れた沈黙を壊したのは優。
静かに拘束していたコナンの腕を離し、近づけていた体勢を元に戻す。
「・・・・・・おい、?」
「コナン君、あなたは何を抱えているの?」
今の話で、名前を変えて生活をし、よからぬ者に狙われていることは分かったけれど。
そう、最後の最後でも、
コナンはスタンドを出現させることなく諦めの姿勢を見せた。
そしてコナンが身をおいている状況は、まさしくコナンは守るべき存在である、という結論を固めさる確証になっただ。
「え、おまえ・・・あ、いや、優さんって、」
僕の敵なんじゃ、
意味が分からない、という顔に
してやったり感と、ようやくこの大仕事を終えられたことへの解放感が優本来の笑みを浮かばせた。
「ふふっ、取って付けたように名前を呼ばれても。それに今更猫被らなくていいよ。」
私、あなたの敵じゃないみたい。
腕を回すなどして肩の凝りをとりつつ、そう言い放った優に、
コナンは口を開けたまま固まる間抜けな姿をさらすのだった。
エンジンをかけて走らせているミニ クーパーの車内は、先ほどとはまるで異なる雰囲気なのであった。
「私、コナン君が年相応じゃなさすぎて、ついつい敵なのかと疑っちゃったー」
確証はなかったけど鎌かけてみるもんだね、
けらけら、という表現が似合うような笑いで明るく言っているがコナンは未だ困惑中だった。
「でも優さん、本当の俺と話がしたいって・・・」
「猫かぶりをやめたコナン君と、って意味だったんだけど・・・なんか勘違いされちゃったから。」
コナンは漸く気がつく。勝手に勘違いをし、あれよあれよと自分の秘密を自分自身によって零しまくっていたのだと。
「違うなら違うって、」
「否定したら本当のこと話してくれないでしょう?」
そう。優の言ったとおりである。
コナンは今のところ阿笠以外に秘密を漏らしていないし。漏らすつもりもなかった。
会って間もない優にならなおさらだ。
「蘭は…?」
「もちろん何もしてないわ。携帯の電源は切らせて貰ったけどね、」
ずっと張り詰めていた緊張がようやく解けたようでコナンは息を吐いた。
大事な子の名前まで出して脅すのは少し酷なことをしてしまった、と優は思った。
「・・・優さんって何者?敵じゃないんだよね?」
結局、優にとって豊作であった今回の出来事もコナンにとっては収穫ゼロなのだ。
少しでも優の情報がほしいコナンなのであった。
「敵じゃあないわ。でもそれ以上は、教えてあーげないっ。」
「なっ、ずりぃー・・・俺は言ったのに」
コナンを追い詰めたときとは大人びた様子であった優は、その反動か子どもっぽい言動をするのだった。
つられるようにコナンも子どもらく拗ねた様子を見せる。
「言ったんじゃなくて、言わされたんでしょう?」
しかし、そんなコナンをちらりとみつつ跳ね除けるような言葉を返す優。
「優さん、結構性格悪いね!」
「年上の女性にそんな口利くものじゃないわよ?おぼっちゃん、」
コナンと優、笑顔であるのに毒を吐きあっている妙なやりとりであった。
しかし、素の自分をさらけ出せる存在として距離を縮めることが出来たことに双方得るものがあったと感じていた。
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