13*
事務所のドアをいつものように開けて蘭を呼んだ。
そう、いつものように。
違ったのは・・・
ソファーに座わる如月優という存在。
ミステリー小説について語ろうと思って、そういった女の笑みは胡散臭さを感じさせた。
一体何を目的に俺を連れ出すのかは分からずに居たが、
出会った頃からどこか引っかかりを感じていたこの人にようやく答えを聞くいい機会だと素直についていくことにした。
美術館オーナー殺人事件での、目暮警部の職質にたじろいだ様子を目にし、
職業は完全に嘘だろうな・・・と、あの下手くそな演技に呆れたのはつい最近のことである。
本来の職を隠す必要のある人間で、蘭の事を探るように見たあの視線、
これらをヒントにして導き出す答えを、エレクトリック・ブルーのミニ クーパーに乗るよりも早く出せていたのなら俺はあそこまで慌てることもなかっただろうに。
いつものごとくコナンとして俺が猫を被っていたら、意味深な言葉を投げかけられた。
子どものいうことだから、と周囲が受け流すところを優という女は見逃さず、言動が年不相応な俺の様子を疑って何か掴んだのだ
本当のあなた、というのは工藤新一のことをおそらく指しているだろう・・・
俺が目の前の女を怪しんでいるように、この女も俺の事を怪しんでいた。
それは予想していないわけではなかったが、相手に確信を持たせるようなヘマはしていないはずだ・・・
一体いつ・・・、
蘭に電話をかけても通じず、
余裕を持った笑みを見せる目の前の女に、完全にしてやられた。
くそっ!対照的に俺は焦る
俺に近づきメリットがあるのは、俺をこんな姿にした黒の組織だけだろう。
消しそびれた工藤新一を再び消しにくるだろうからな。
この女、組織の人間だったのかっ!
俺がそのことに気がつくのには遅すぎて、子どもの姿では、いくら女とはいえ大人の力には敵いそうにもなかった。
唯一の対抗手段であった腕時計型麻酔銃も、腕を捻りあげられあっけなく失敗。
俺はこの場を切り抜ける手だてを完全に失った。
なおも続く、精神的な追い詰めに俺は猫を被る余裕を完全に捨て去ってしまっていた。
どこか艶やかな瞳をもつ顔を近づけて、俺の顔を覗き込む女に、苛立ちが募った。
「・・・・あんたには言われたくねぇーよ、」
なんて、なけなしの虚勢を見せて彼女をイラつかせることしか出来なかった
"諦める"という言葉が頭を過り、俺はうつむいた。
ホント、なんなんだ・・・この人。
俺の言葉を皮切りに、沈黙が再び空間を支配したかと思ったら
彼女、優さんが俺の腕を放し距離をとった。
せっかく追い詰めたのに意味が分からない。
終いには
「何を抱えているの?」
と、俺に問いかけてきた。
いや、分かってて今まで話しをしてたんじゃねーのかよ・・・
勝手に勘違いした俺が、優さんにぺらぺら自分の情報を零しちまってたなんて
マジで一杯食わされた・・・
この人の演技は下手だ、なんて油断した俺が悪いけれども
今日の優さんは同じ人と思えないほどに悪役を演じていた。
俺が焦るのを内心楽しんでたんじゃないか・・・?なんて考えに至って
ふつふつと悔しさが湧き上がる。
組織であったのならこの場ですぐに俺を始末するだろうから、
本当に優さんは組織の人間ではないのだろう。
それに
敵じゃない、といった優さんの目はまっすぐに俺を写していたのだから信じたい。
結局のところ、あの人は俺の事を知りたいだけ知ったくせに、
何一つ自分の事を教えてはくれなかったけどな・・・。
ぜってーひと泡吹かせてやる、
俺はミニ クーパーを涼やかな顔で運転する優さんを見ながら密かに誓ったのだった。
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