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「ごめんねー、付き合ってもらっちゃって」


「平気よ、楽しいから!」



とあるショッピングセンターに、優と明美は居た。

明美の妹へのプレゼント選びをしていた。



製薬会社に勤めている妹は現実的思考の持ち主らしく、実用性のあるものをあげたいというのが明美の意見だった

しかし、実用性のあるものといって頭の中に浮かぶものはどれも既に持っていそうな物ばかり。
なかなか決められずにいるのだった。




「妹さん、もうすぐ誕生日なの?」


「ううん、そういうわけじゃないの・・・」


優はプレゼントと聞いて勝手に誕生日だと思い込んでいた

首を振って明美は否定し曖昧に笑う。






「・・・そっか、仲良いのね!あ、これどうかな?」




その表情から優は触れてはいけない事だと察し、それとなく話題を変える。

明美の肩が僅かに動く。


優はそれを見つつも、普段通りでいる。



出会った際の食事で連絡先を交換するほどには打ち解けてはいたが、明美は語れないことがあるのか時々、口を閉じる。

その時決まって曖昧に笑うのだ。



笑っているのに影のある明美のその表情が優は苦手だった。

踏み込んではいけないという線が引かれ、近づくことの許されない距離があるのだと再認識させられる寂しさがあるからだ。


加えて、儚さを感じるから。


普段は明るい笑顔を見せる彼女だからこそ、ふとしたその表情がとても儚く映る。

明美のその消え入りそうな笑みは優の心にチクりとしたものを残す。




「どれどれー?」


「これ、このカバー!」


おちゃらけた声を出しながら優の指す物を見やる明美。

そこには、レザー素材のシンプルなカバーが置かれていた。

陳列されたカバーのサイズはさまざまで手帳やノート、本のカバーとして利用できるようだ。

優は彼女が何かを抱えていることは既に気付いていたが、あえて気付かないフリをする。



踏み込ませないように、と明美が引いた線を無視する気になれないうえに、
優がその線を跨がずに居る態度に、彼女は力が入って上がっていた肩を下ろすのだ。


まるで安心したかのように、そっと。

ほんの一瞬の仕草ではあるが、分かる。本人は無意識だろうが・・・。




おそらく、なにも知らない相手だからこそ一緒に居ることが楽なのだろう。
それは優にも理解できる心情だった。



今明美と居ることこそが、優にとってそうであるからに他なかった。


優にも明美に話せないことはいくつもある。
悪意のあるものでないにしろ、嘘だっていくつか吐いた。

「手帳やノートは持ってるだろうから、それらを大事に使うためのカバーだったらいいんじゃない?」


「わぁ、これ良い手ざわり!」

受け取ったカバーの手触りに驚きつつも気に入ったようで、あれこれと種類を見ている。
一枚革で作られた手縫いのカバー。色合いやツヤからも品質の良さが窺える。


どの色が良いかな、という明美の言葉に

「妹さんの好きな色は?普段の服装に合う色とか良さそう、」

優は答える。


妹のことを考えて楽しそうな笑みを浮かべる明美に内心ホッとしながら。


この心地よさを失わないように、引かれている線の手前で立ち止まるのだ。

お互いに何も知らないままでいい。
はたして・・・これが正しいのか。


答えなど出ない。

けれども優と明美にはこうした距離感が必要なのだ。




一緒に居る間だけでも、笑顔が翳らにように・・・。


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「これ、ネームも入れられるみたい!」

カバーの内側を開いて見せた優。



「素敵!・・・なんだか自分の分が欲しくなっちゃう、」

「自分が欲しいものって、妹さんも貰ったらきっと嬉しいよ!」


組織によって大事に大事されている妹に、久しぶりに会えることとなった。
どうせなら何かプレゼントでもしようと決めた。



組織の中で立場が悪くなった明美は、幹部である妹への接触が以前以上に難しくなった為に、

姉らしいことをしてやれていない、と自責の念があったのだ。



でも、それだけじゃない。




明美はプレゼント選びを理由に優に会いたいと思ったのだ。

自身と関わることは危険なことだと考え、今まで他人と極力触れ合わなかったが・・・

居心地のよさを知ってしまっては、手放すことが惜しくなっていた。つかず離れず共に居る、ということが。


おそらく優は明美の線引きに気付いている。

触れてはいけない領域を掠めるたびに、優は立ち止まって踏み込まないでいてくれる




「ね、どうせなら姉妹でおそろいにしたらどうかしら?」

「おそろい?」

優の提案に、明美は手元のカバーに落としていた目線を上げた。


「えぇ!ネームとおそろいの特別感がいいと思うんだけれど、」


「特別感、かぁ・・・」

おそろい、という響きに照れながら喜ぶ妹の姿が脳裏に浮かんで、いいかもしれない、と明美は優の提案に賛同した。

子どもの頃は、いろんな事を素直に話せる相手が大事だったがゆえに、今の優とのありかたには明美自身可笑しさを感じてはいる。



けれども、それが間違っているとも思わなかった。





そういう在り方だって、きっとあるだろうから。

会計を済ませた明美が誰に問うでもなく呟く。

「喜んでくれるかな、」


「もちろん!」

明美の不安を消すように、優が力強い言葉とともに笑みを浮かべた。

詰まるような息苦しさを消してくれる存在と、あとどれだけ共に居られるのか分からない。
だからせめて・・・



「・・・優ちゃんが言うなら間違いないねっ!」

つられるように明美も優に笑みを向けるのだった。
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