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※オリキャラがちょいと出ます。



携帯の音が静かな部屋に鳴り響いた。表示はSPW財団とあり、通話ボタンを押す。



「もしもし、」


気が付けば日付が変わっていた。
考え込みすぎて、結構な時間がたっていたようだ。




「もしもし、ユウ?ボクだよ、ベンジャミン!」

覚えているかい、そう続ける声を聞きながら彼の顔を思い浮かべる。

SPW財団の情報部門に所属しており、イタリアで調査の際に一緒になって以来だった。


もともと探り屋を生業としていたベンの腕を承太郎がかって引き入れたという話をベン本人から聞いた。
彼のおしゃべりな口から幾度と無く話題にあげられたおかげである。





ベンの明るさにつられて、自身の堅くなっていた顔の表情が緩んだのを優は感じた。
彼のマシンガントークに捕まるとなかなか解放されないのでベンのことを少し苦手としていたが、

それが今はありがたかった。





絶えることなく続く彼の話に本題が見えてこず、とりあえず本題を聞く。

「ベン、どうしたの?」

個別に連絡先を教えたにもかかわらず、SPW財団から連絡しているのだから大事な用件だとなんとなく思った。



床に落としたままにしていた写真を拾いながら耳を傾ける。



チラリと目に入れた写真はやはり間違いなく彼女で、声だけでも平静を装うが心がざわめいた。




「そうそう、ジョータローに頼まれたんだ」


「承太郎さんに?」


カタカタとキーボードの音が聞こえるから、おそらくベンは仕事をしつつも優と連絡をとっているのだ。

承太郎の折り返しが無いことや、ベンのその状況から、アメリカでそれほどの事が起きているのだと改めて理解する。




「あぁ。ユウのあたってる件に協力してやれって。」

ジョータローとは別件らしいね、



「えぇ、初めて単独で。でもベンも忙しいんじゃ・・・」

手を借りたい気持ちは強いが、情報部門でもっとも実力があって承太郎から信頼されているベンにさらに仕事を押し付けるのは少々気後れしてしまう。


そう言って言葉を濁した優にベンは黙り込み、ため息をついた



「分かってないなぁ、ユウは。ジョータローは君の事が心配だからボクに頼んだんだろ?ホントは自分が日本に行く予定だったみたいだし」



「え?」

呆れたような声を出して発されたベンの言葉に、つい聞き返す。

承太郎がそこまで気にかけてくれているなんて思いもしなかった。




「上司が部下を心配するのは当たり前だろ?ユウってなんかそそっかしいし・・・。

その日本人の遠慮?ってやつ?今は必要ないよ。むしろ困ったときはオタガイサマってやつさ!」


ベンが得意げな顔でウインクしている様子が目に浮かんだ。

いつもはおちゃらけているけれど、なんやかんや頼りになる人だ。



「・・・そうね、」

でもそそっかしいは余計よ、そういって優は笑う。


ちょっと照れくさいから素直に、とはいかないけれどもベンにひっそりと感謝した。















「それで、僕は何を?」

「ジョースターさんの念写に移っていた人物について、もっと情報が欲しいの。」


頭を仕事に切り替えてベンに内容を伝える。

コナンや蘭についてはある程度は分かっているが、それでも情報は少ない。

もう一枚の写真については、言うまでもなく足りていない



「ジョースターさんの念写か・・・名前が分かってると調べやすいんだけど、」


「大丈夫よ、三人とも名前は分かってる。」



おそらくベンなら名前が分からなくても調べることは可能だろう。しかし時間がかかる。

その点で、優が日本で調べていたことが活きてくる。



「え、三人?」


「・・・平気?」


ベンもさすがに三人だったというのは予想外のようで聞き返してきた。

やっぱり頼むのが申し訳なく感じてしまう。





「・・・まぁなんとかなるか、こっち帰ったらご飯でも奢ってくれよ?」

「えぇ!」


きっとため息の一つでもつきたくなるような忙しさだろうに、引き受けてくれるベンの優しさに改めて感謝する。

そして、アメリカに帰ったらベンとご飯に行くことを忘れないよう記憶に刻んでおく。



「じゃあ、細かいデータはメールで頼むよ!」


「了解。ベン、その三人の中で、・・・その、・・・っ」

ベンによって締めくくられそうになった電話に、慌てて付け加える。





言わなくてはいけない。調べなくてはいけない。

それが優の仕事であり、目的なのだから。


自身が写真を目にしてから感じている不安や焦燥がどちらの意味でなのか、知らなくては。



本当は彼女が敵であるなどと、考えたくは無い。

味方で、守るべき存在であってほしいのだ。





「ユウ?」


「・・・・・・宮野明美について、特によく調べてほしいの」




優がそういった感情を明美に対して持ってしまっている時点で、もう冷静に事実を調べることはきっと出来ない。

けれど、ベンならば、客観的に事実を優に伝えるだろう。


「ミヤノ アケミね、オーケー!」

それじゃあ、そう言って電話は切れた。




携帯を置き、閉じていたパソコンを開いてメールを送る。

どうか・・・。どうか、と願う自分の心に優は気付かないフリをする。


「・・・明美さんっ、」


虚しくも部屋に落とされた言葉は、誰にも届かない。
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