17*
洒落たレストラン。ドレスコードに則った服装をする人々のなかに異色を放つ人物がいた。
白のコート、白の帽子を身につけた長身の男。そして傍らには杖を付く老人。
迷い無く店の中を進み、一つのテーブルの前で立ち止まる。
そこには席に着き、料理を待つ女がいた。
承太郎はジョセフを連れて、ある女と対峙していた。
露出の多めな服装からのぞく細くしなやかな褐色の腕足は、女の美しさを形作っていた。
「はて、お主と最後に会ったのはいつじゃったかのぅ・・・」
「・・・歳を数えるのはやめたの。」
ジョセフの言葉に気だるげに答える女。
立ったままの承太郎に見下ろされていても、女は恐れることはない。
ワイングラスをくるりと揺らして味わう仕草さえして魅せた。
「少なくとも、十五年前か・・・」
俺は会った覚えはねぇが、と承太郎が口を開くと
女はワイングラスを乱暴に置いて承太郎をきつく睨む。
「いちいち年を数えるんじゃあない!女心の分からない男ね!!」
癇癪を起こし、美しい顔を歪める女。
対して承太郎は隠すことなく眉間にしわを寄せた。
人の機微を察するのが上手い承太郎も、複雑な女心は領域外だ。
そもそも承太郎は女という生き物が苦手だった。
論理的でなく、感情でものを言われては会話が成り立たないからだ。
こちらが正論で応戦しても、今度は涙という武器によって白旗を強要されるのだから最初から勝ち目など無い。
歳をとろうが、結婚しようが、この考えは変わることはなかった。
こういった事はイタリアの女性の心を陥落させたジョセフの方が向いている。
「すまんのぉ。承太郎はちと、口下手なんじゃ。」
黙り込んだ承太郎をフォローするようにジョセフが代わって口を開いた。
「心配しなくとも、君は変わらず美しい。嘘なんかじゃあない。ここに来た時ひと目で君と分かったわぃ。」
歳を重ねたために腰は曲がってしまい杖をつくようになったジョセフだが、背中は変わらず大きく見える、と承太郎は密かに思う。
こうしたジョセフの天才的ともいえる口の上手さは、承太郎にも真似できない。
よく動く口のおかげでいらぬ災いを呼んだ祖父の姿を幾度と無く目撃し、真似しないよう無意識が働いているのかもしれないが。
「・・・ふんっ。あたりまえよ、」
お手入れしてるんだから。
ジョセフの言葉がお気に召したのか、真っ赤なルージュをひいた口で妖艶に微笑んで魅せた。
「やれやれ・・・。俺は女のご機嫌取りにここに来たんじゃあないぞ、」
「これっ!」
思わず呟かれたのは、承太郎の本音。聞こえたらまた面倒くさくなるのは分かっていても、漏らさずにはいられない本音だった。
隣のジョセフに諌められた承太郎は、黙って帽子の唾を深く下げた。
「で、私に何の用?おしゃべりしに来た訳じゃあないんでしょう」
気だるげでありながらも色艶を含んだ声で女が問う。
その言葉にジョセフが頷き、承太郎に続きを話すよう視線で促す。
「ちと、知りたいことがあってのぅ。」
「最近、DIOの部下だったスタンド使いたちの動きが活発化している。」
示し合わせたように動き出したスタンド使いたちの目的とは何か、なぜ今なのか。未だつかめずにいる。
捕まえて話を聞こうにも口を開こうとした人間は皆死に、時にはこちらの仲間が殺され、結局分からずじまい。
「お前なら何か知っているだろう、マライア。」
以前DIOの部下だったお前なら。
そう言って承太郎が人差し指を向けたその女は、
エジプト九栄神のひとり、バステト女神の暗示を与えられたマライア。
かつて敵として立ちはだかったスタンド使いであった。
「・・・どうかしら、」
マライアの真紅のルージュが怪しく輝きを放って見えたのは、気のせいではないだろう。
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