18*
マライアの視線に誘導され、承太郎たちは座席に腰掛けた。
頃合を見計らったように運ばれてくる料理に、目もくれず話を促す。
「知っていることを話せ」
「食事、もちろんあなた達のおごりよね?」
「・・・・支払ったら話すのか、」
しかし、承太郎の言葉に答えることなくナイフを手にして食事を始めるマライア。
目の前に自身をいとも簡単にどうにか出来てしまう承太郎がいるとは思えない余裕だった。
「さぁ?」
どんなに余裕のあるような態度をしていても、物理的にも、スタンド能力的にも圧倒的な力を持つのは承太郎である。
なにをしたって、マライアは要求に応じなければならない。
マライアにはそれがちっとも面白くない。
承太郎が男としての魅力を駆使して、自分を陥落させたならばきっと、マライアは素直に話をしていただろう。
マライアにとって重要なのは、魅力。
金髪をなびかせ、落ち着きのある艶やかな声、彫刻のような肉体によってマライアを魅せたのはDIO。
真の力とは、魅せること。
魅せられたから従う。
魅せられたからお近づきになりたい。
魅せられたから・・・、
その力こそが全てを自由に操る最強なのだとマライアはDIOに出会い知った。
以来、DIOのあの魅力を忘れられずにいる。DIOのいなくなった今も。
「俺は頼みごとをしてるんじゃあねぇぜ。自分の状況を良く考えて口を利いたほうが身のためだぜ」
武力という力は、魅力には及ばない。承太郎の言葉はマライアには響かない。
彫りの深いこの端整な顔立ちに愛を囁かれようものなら、マライアを捕まえて離さないあの魅力から解放されるかもしれないのに。
承太郎は決してそのようなことはしない。
十五年も経ったのならば、大人として汚れたことをしていたって可笑しくない。
欠片も気持ちを持っていなくとも、嘘にまみれていようとも、女に愛を囁く男を演じることだって出来るだろう。
承太郎は決して、そのようなことはしないのだ。
曲がらない立派な姿のようでいて、何一つ変化しない男とも言える。
マライアにとって承太郎は堅物な人間、男でしかないのだ。
それでは魅せられない。
むしろ人と合わせながらも強かに、時には卑怯なこともしながら生きてきた自分を否定されたような気さえする。
酷く惨めで、情けないこの感覚は不快だった。
そもそも、承太郎とマライアは水と油のようなもの。
自らを貫く人間と、魅せられたものに寄り添うように生きる人間とでは、生き方はもちろん、考え方も違いすぎる。
「確かに、あのDIO様を倒したあなたは脅威だけれど・・・でも駄目ね。」
あなたには魅力が足りないもの、
マライアの言葉の意味は分からない。
承太郎とマライアはどこまで行っても平行線で交わることは無い。
しかしながら、承太郎はマライアを少々不憫に思う。
もう存在しない男に対しての敬称に、未だその亡霊に囚われているのだと感じたからだ。
―――悪には悪の救世主が必要なんだよ、
かつて戦った盲目の男が残した言葉が過ぎる。
母の命を脅かしたあの吸血鬼は、目の前の女にはそうだったのかもしれない。
高校生だった頃の自分は旅の目的と確固たる正義を抱いていた。
しかし、世界はもう少し複雑だった。
こうして自分とは対極の立場の人間と関わるたびに感じるのだ、
承太郎の行動によって何かを失った人間がいて、承太郎こそ悪と呼ぶ人間だって存在することを。
「スタープラチナ。」
凛々しいスタンドが、承太郎の後ろに現れる。
ただの脅しではなく、本気だという意思表示。
はっきり出現するスタンドは、承太郎の精神力によるもの。
イエスやノー、正義や悪といった二つに分けられない現実の複雑さを知ってもなお、揺らがない心からくる力。
旅の途中に失った仲間たちを想っているからこそ、承太郎は揺らがずにいられる。
過去の行いに承太郎が疑問を抱いてしまっては志半ばに死んだ仲間はどうなる、そんな思考に支えられているのだった。
「俺はやるといったらやる男だぜ、」
深く被った帽子の奥に光る瞳が力強く語っている。
「あなたに出来るかしら?・・・ふふふ、」
マライアは持っていたナイフを静かに持ち替え、挟んだ指から滑らせるようにして承太郎へ放った。
すかさずナイフをスタープラチナで止めようと手を伸ばす。
しかし、
その手に届く前に、ナイフは行く先を変えた。
「ひょえぇ、」
「っ!」
ジョセフと承太郎は同時に目を見開いた。
ナイフはジョセフの使用していた杖に、見事に刺さったのだ。
「てめぇ・・・」
「あら、あなたがいけないのよ?私の食事を邪魔するのだから。」
承太郎は眼光を強めてマライアを見やる。
そんな承太郎に変わらず余裕の笑みを返すマライア。
対峙している二人だが、交わるのは視線だけ。
生き方も、考え方も異なる二人がここにいた。
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