21
ポアロにはすっかり常連となってしまった優。
それはコナンや蘭の様子を確認するためであり、
店長とミステリー小説について語り合うためでもあった。
今日は気分転換のため。
店長や梓をと会話を楽しみ名がら食事をしていた。
サービスといって店長が淹れてくれた紅茶を飲み、心も体も満足感を得ていたとき、
ふと優が携帯を弄りあるメール開く。2日前に届いたベンジャミンからのメールだった。
そこには「・」と「−」だけの文章。
−・−・−−−・−・・・・−・・・
・−−・・・−−−−・・・・−−・・・−・・−−・・−・−−・・−・・
文字化け・・・?いや、ベンがこんな初歩的なミスをするはずが無い。
ティーカップを置いて優は考え込む。何処かで見たことある気がするんだけれど。
そうやってこの二日優は解読に悩んでいた。
「それ、モールス信号だよね?」
「え?」
「えーっと、さよならだ、やくそくは・・・」
いつの間にか優の隣に座っていたコナン。
画面を覗き見るようにして、内容を解読しようとしていた。
なんでいるんだ
いつ来たんだ
なんて言葉が頭を過ぎるけれど、それを聞く前に慌てて画面を手で覆った。
とにかくコナンがこれ以上読むのを優は阻止したかった。
二日も悩んでいたことを瞬時に解決してしまうこの子どもの頭脳は凄い。
おかげでモールス信号だと分かったのはありがたいけれど、
相も変わらず余計なことに首を突っ込むのはやめてほしい。
「ちょっと!プライバシーって知ってる?」
「えー?僕、子どもだから分かんないや!」
ニコニコと、それはもう爽やかな笑顔ですっとぼけるコナン。
このガキ、
思わず口から出そうになった言葉を飲み込む。ここは喫茶店ポアロ。
以前二人だけで話した車内とは状況が違う。
どう考えても今、この場では、コナンが優位だった。
「ねぇ優さん、そのメールって」
コナンが優の見ていたメールについて追求しようとする。
しかし、優はコナンの視線を無視して、
「あなたには関係の無いことよ、」
そう冷たく言って席を立つ。
「でも、さよならってただ事じゃなさそうだよ?もしかしたら・・・」
それでも、事件の臭いを嗅ぎつけてしまったコナンを諦めさせることは出来ない。
服を掴んで優を引きとめようとするコナンに、少しだけ声を荒げる。
「だから!子どもが口を挟むような事じゃないのよ。」
その言葉を残して、会計を済ませて店を出る。早足で向かうのは自身の家。
コナンが考えていることは、おそらく当たっている。
何かがベンに起きたことは、あの暗号めいたメールの文から明白なのだ。
だからこそ、子どもを巻き込むわけにはいかない。たとえ大人顔負けの頭脳を持つ子だとしても。
自分がしっかりしなくては、と優が自身に喝を入れていると、再び携帯が鳴った。
誰だろう、と携帯を見ると、
「承太郎さんだ、」
画面に表示された名前は、ここ最近連絡の取れていなかった上司。用件はなんとなく予想がついた。
優は息を吐いて少し気を落ち着けてから、通話ボタンを押す。
「もしもし、」
「空条だ。連絡を断っていてすまない、少々立て込んでいた。」
落ち着きのある低音を久々に耳にして、どこか焦りを感じていた優の心に少しの余裕を生み出す。
「大丈夫です、ベンジャミンから聞きました」
「・・・・・・そのベンジャミンだが、」
亡くなった、と承太郎の静かな声が機器を通して届く。
コナン、そして優が推測していたことを事実としてハッキリと承太郎から伝えられた。
「そう、ですか・・・予感はしていたんですが、」
詰まりながらも、なんとかいつも通りを装って言葉を返す。
きっと承太郎もそうなのだ。動揺や悲しみが無いわけじゃない。
けれど、表に出して、残されたもの同士でそんな思いを共有することよりも、するべき事があるのはずなのだ。
だからは今はぐっと堪えるときなんだと、優は震えそうな声に力を込める。
「予感だと?」
「えぇ、ベンから二日前メールが届きました。わざわざモールス信号にして。」
さよならだ、という言葉も文面にありました。
と、承太郎の疑問に言葉を返す。
すると、
「ベンジャミンの遺体には銃創があった。そしてパソコンが破壊されてデータも消去されていた。」
他殺だということは状況から明白。
「データ・・・?」
「あぁ。」
緊急の場合に承太郎のパソコンに一部が転送されるようにプログラムされていた。
しかし相手もやり手だった。ウィルスによってデータを破壊されていた。
二日たった今も、修復は欠片程度しか進んでいない。
修復の済んだ部分を確認すると”宮野明美”という人物の詳細であった。
ベンジャミンが自身の命を懸けたデータなのだからこの女には何かある、というのが承太郎の見解だった。
「それじゃあ、私がベンに調査を頼んだからっ・・・」
話を聞いた優は、ひどく動揺した。
ベンジャミンの死が、己のせいであったのなら・・・どう償うべきなのか。
「いや。それは契機にすぎないだろうな」
「え?」
しかし承太郎は優の言葉を否定する。
”宮野明美”という人物を調査してベンジャミンの身が危うくなるほどの情報とは何なのか。
承太郎にはそれが分からなかった。見るからに一般人なのだから余計に。
それよりも、マライアの周辺を探ったことのほうが危険だったといえる。
マライアを狙っていた組織にとって鬱陶しい行為に他ならないからだ。
一発で仕留めたことが分かる銃創。
ウィルスによってデータを破壊し、その上でデバイスを破壊する周到さ。
そして証拠という証拠はほぼ無いという状況からも、その組織による犯行に思えた。
マライアも承太郎の推測を後押しするように、ヤツらの仕業だと証言した。
一見かみ合わない、現場と、そしてベンジャミンの残したデータから、一つの仮説が頭を過ぎる。
ベンジャミンはマライアの件で目をつけられ、尚且つ”宮野明美”の調査をすることで
さらに組織を探る行為をしてしまったために口封じをされた。
”宮野明美”という女が組織と繋がる女だからこそ、そのデータを守り通そうとした、という仮説だ。
「俺が別件でベンジャミンに調査を依頼していた。」
優の件も、承太郎の件も背景に組織がいたという偶然によってベンジャミンが狙われてしまったのだ。
「それだって偶然です!承太郎さんのせいではっ、」
承太郎の仮説を携帯を通して聞いた優は、心の中で激しい後悔に襲われる。
優がベンジャミンの暗号を2日もちんたらと考えている間に、
承太郎は仮説だろうが、真実に近づこうと行動していたのだ。
そんな人間を責めるなんて間違っている、そう思っても上手い言葉はでてこない。
「・・・あぁ。」
優の言葉に短い応答をする。
その声がいつもより低く、痛みを抑えるような、そんな苦しさを伴ったものに優は感じた。
誰のせいでもない、というのはむしろ・・・
このどうしようもない感情をどこにやっていいのか分からない憤りに変わって胸を詰まらせた。
「優、お前の一件と俺の関わる件はどうやら繋がりがあるようだ。」
一度こちらに戻って来い、
どんなに胸に痛みを抱えていても、ブレない強さを持つ承太郎が優には眩しい。
小さなことにもすぐ躓いて、気分転換ばかりしていた自分とは違うと思い知らされるけれど
なによりも、この人が上司でよかったともう何度目になるか分からない言葉を内心呟いた。
「おそらくベンジャミンが、他にも情報を残しているはずだ。」
それを見つければ組織にも、宮野明美にも近づく一歩になるはずだ、
そう言った承太郎に、
「はい!」
優は自分の出せる精一杯の声で答えた。
それは真実に近づくための一歩。
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