04*







今日は、用事があるらしく珍しくおっちゃんが休日の朝に早起きだった。


「それじゃあ、行ってくる。昼飯は二人で食ってくれ。」


「分かった、いってらっしゃいお父さん。」



そう言って見送った蘭に声をかける。

「おじさん早起きだね・・・事件でもあったの?」

いつもなら俺と同じように、目をこすって起きてくるはずなのに。
・・・いや、あのおっさんのほうが寝ぼすけか。


「おはよう、コナン君。お父さん、取材を申し込まれたんだって。」
意気揚々と出てちゃった、という声に

ふーん、と返す。

大丈夫かあのおっちゃん。俺が事件解いてる間眠ってんだから、聞かれたって答えらんねぇーだろ。
苦笑いしか出てこない。

朝ごはん食べちゃおう、という蘭の声にしたがってローテーブルの前につく。

「はい、コナン君。」

「ありがと、蘭ねーちゃん。」
蘭がよそった茶碗を受け取りご飯を二人で食べ始める。


「そうだ、お昼はポアロにしよっか、たまには二人で外食しちゃおう。」
なんて悪戯な笑みを浮かべた蘭の言葉に頷いたことが、

あの人と出会うきっかけになるとは、思いもしなかった・・・。

――――――――



ポアロの扉を開くと、いつものように梓さんが迎えてくれた。

「こんにちは。」「梓さん、こんにちはー」
蘭と俺が声をそろえて梓さんに返す。

梓さんの隣には、見知らぬ女性が立っていた。


梓さんと同じぐらいの歳に見えるその女性は、
毛利探偵事務所とポアロについて話していたらしい。

なるほど・・・。たしかに、ミステリー小説好きならこの店の名前につい反応しちまうだろうな。
おそらく俺と同様に、この人もミステリーが好きなのか。

などと勝手に推測しながら口を挟む。


「僕知ってるよー、エルキュール・ポアロのことだよね!」
おじさんが探偵で、お店の名前のポアロも探偵っておそろいだもんね、

俺の言葉に彼女はしゃがんで目線を合わせて

「ボク、よく知ってるね!」
と、微笑んだ。

シンプルな色合いのシャツとスカート、ハーフアップの髪型が大人っぽさを演出しているが
まつげによって大きく見える瞳と柔らかな垂れ目をさらに緩ませる笑顔は

どちらかというとあどけなさを感じさせるものだった。


ってなんで俺、こんな事細かに観察してんだ・・・。事件でもねぇのに。

勝手にこっ恥ずかしくなって照れ笑いをしつつ返す。
こういう時って子どもだと便利だよなー。

「えへへ、ボクもミステリー小説好きなんだ!ボク、江戸川コナン。お姉さんは?」

「あら、ごめんなさい名前も名乗らずに・・・。私、如月優です。最近ここらに越してきたの。」

そういった優さんはまだ知り合いが少なくて、と続け
立ち上がって蘭によろしくお願いしますと手を差し出した。



その瞬間、俺は瞬きを忘れて彼女を注視した。
っ、なんだ今の。

手を握った時に蘭を見据えた彼女の一瞬の視線は何だ?何かを探るような、そんな瞳。



既に何事も無かったように、蘭の言葉に応じている優さん。

目が離せずにいると彼女と視線がかち合った。


先ほどの、あの瞳の彼女ではなく、普通のなんら変わらない表情の彼女だった。
だからこそ、おかしい。


彼女は、また、と言い残し店を去っていったが、
あの蘭と握手を交わした瞬間の瞳だけはいつまでたっても俺の脳裏を離れなかった。


蘭が話しかけても、注文したナポリタンが来ても、ずっとそのことだけがちらつき、上の空なのであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

- 5 -

prevnext

Timeless