その名も大包平





そこには平日にも関わらず、かなりの人が並んでいた。

一番初めに展示されているのが、大包平、そして奥にあるのが大般若長光らしい。もちろん大包平から見たいので、女性の多いその列に並んだ。





写真を数枚撮りあとはもう目に焼き付けて、他の人の迷惑にならないよう流れに沿って退く。こっちが大般若長光で、と視線を移した時、視界に何かが翳めた。


いや、翳めたというか、明らかに何かいる。何かっていうか、男の人がいる。展示ケースと展示ケースの間の、立ち入り禁止スペースに。


随分と体格のいいその明らかにトーハク関係者ではない不審者を、思わずジロジロと見てしまった。だってあんなに赤い髪、見たことない。


「……何をジロジロと見ている」
「…………えっ」


しゃ、喋った!!

いや、人なんだから喋るのは当たり前なんだけど、そんなに堂々としてて良いの!?とびっくりして辺りをキョロキョロと見回す。でも、可笑しなことに、そちらを見る人は全然いなかった。別にその男の人は小さい声で喋ってる訳でもないのに、スタッフの人まで気にしていない。まるで、そこに人なんていないかのよう。


「おい、お前、俺が視えるのか?」
「へっ……えっ、あ、は、はい……?」


私まで怪しまれるのが嫌で、刀剣を見ている振りをしてその人の問いかけに答えた。その人もなんとなく察してくれたのか、そのままで何を言うでもなく話を続ける。


「……これは驚いたな。そんな人間がいるとは」
「はぁ……?あの、まさか貴方は、人じゃないんですか?」



そんな訳ないとは思いつつも、この異様な状況に説明がつかなくて恐る恐る私からも質問をしてみる。私の言葉を聞いたその人は『はぁ?』と言わんばかりの表情で私を見、そしてフン、と鼻を鳴らした。


「当たり前だろう。俺は古備前の名工包平が一振り、大包平だ!池田輝政に見出され−−」


えっちょっと待って待って。

大包平?大包平って、大包平?混乱して、目の前で自慢げにペラペラと喋り立てるその人(自称:大包平)を横目に私は頭を抱えたくなった。そして突然、ハッとした。


そうだよ、どうしてすぐに出てこなかったんだろう!!

大包平って、とうらぶのキャラクターだよね?なんで忘れていたんだろう。さっきはまるで頭に靄がかかったようだった。その理由はわからないけれど、とにかく思い出した。思い出してしまった。でも、思い出しても何が何だか分からない。寧ろ、ますます混乱してきた。


「おい、聞いているのか!俺は−−」
「ごめんなさい今無理なのでちょっとまた後で来ます」


失礼かなとは思ったけど、大きな声で話を聞けと言う自称大包平の言葉を遮って私は一旦その場を後にした。