仕方ないから一緒に帰ろう





あの後私は平成館や東洋館を隈なくまわりながら意識を落ち着けて、まだ自分の記憶を疑いつつ2時間後にそこへ戻った。そうしたら、いたのだ。あの鮮やかな赤髪の彼が。

いやいやいや、うっそだぁ、いや、これが現実だ、と一人で百面相してしまい当人である自称大包平に笑われたのは大変不本意であり遺憾であります。


「なんだ、やはりまた俺に会いに来たのか」
「は?」


さも自信ありげにニヤリと口の端を上げてこちらを見るその男に私は若干込み上げた苛つきをお首にも出さず、チョイチョイと手で呼び寄せた。そしてそのまま端っこの、あまり人に見えないところまで歩く。すると後をちゃんと付いてくるものだから、ちょっと笑いそうになってしまった。



「あの、貴方があの刀剣大包平の魂魄というのは本当ですか」
「勿論本当に決まっているだろう!
あの女たちがよく言っている“とうらぶ”とやらは知らんが、少なくとも俺は本物だ!まあ彼方では付喪神という扱いらしいが、俺はただの魂魄なのだがな」
「ひぇ、本物……」
「そうだ。ただ、付喪神という設定はあまり好まん。
付喪神など、半分は妖怪じゃないか。俺たちは瀬戸物とは訳が違うのだぞ!」
「そ、そんな事言われても……」



こんなところまでゲームにそっくりとは……。

この大包平(確定)、ゲームとまったく同じで声が大きい。声を張り上げた時なんか耳にキーンッとくる。しかしまあ、いい声なんだこれが……。

あれ?そういえば、ゲームに姿がそっくりなのはなんでだろう。ふとそんな疑問が浮かんできて、私は首を捻った。イラストレーターさんにもこの魂魄とやらが見えたとか……?あれこれ考えていると、それを全て見透かしたかのように大包平がフン、と鼻を鳴らした(本日2回目)。


「俺たちは多くの人間が信じる姿になる。したがってこれが多くの人間の考える俺だから、今はこの中々の丈夫の姿をしている」


大包平の解説に、へー、と相槌を打つ(一応理解もしている)。まあそれが確認したかっただけ、と伝えてもう帰ろうと出口へ足を向けた私を引き留めたのは、やはり大包平だった。


「あの、私帰りたいんですけど……」
「俺も連れて行け」
「……えっ?」
「だから、俺も連れて行け、と言っている」
「いやそれは分かりますけど……いやあの、え、無理ですよ。こういうのって本体と離しちゃいけないんでしょう」


謎に連れて行けと言い張って離してくれない大包平にそう問い掛ければ、そんなことはない、と一蹴されてしまった。










とにかく頑として諦めそうにない大包平の魂魄に私が根負けし、まあどうせ他の人に見えないなら、と付いてくることを許可した。してしまった。そして名前も普通に教えてしてしまった。まあ神様とかではないらしいから、ややこしいことしはならないだろうけど。

そして当の大包平は嬉しそうにニンマリとした笑み(いかにも満足そう)を浮かべて、先程よりも近くなった距離から私を見下ろした。

そして私はその姿に、ため息をひとつ漏らすのだった。