「あああああ無理待ってしんどい!!!」
書庫に私の大声がわんわんと響いた。青江が後で笑っている。おいお前許すまじ。
「……青江」
「だって君、ひどく緊張していたようだから」
「加減ってものがあるでしょ! あんなにガッツリいく予定じゃなかった……」
「はは」
はは、じゃないわコラ! そう心の中で叫びながら、私は資料を幾らか手に取った。書庫に言って手ぶらで帰ってくるなんて怪しすぎるから。まあでも一応感謝はしてるよと伝えながら西廊下まで戻ると、手をひらひらと振る青江を置いて私は執務室へ帰った。
あ、と立ち止まる。そう言えば次郎太刀に私物の爪紅を貸していたのを思い出した。今日は次郎太刀も非番なのだから、今行って返してもらおう、と私は大太刀部屋へ行き先を変えた。
「次郎ちゃーん。あれ返し、て、ったっとわぁっ!?」
障子が開いていたので遠慮せず部屋へ入ろうとした時、足にガッと衝撃が来たと同時に体が前へ傾いた。倒れる! と目を瞑って次なる衝撃に備えたけれど、ドサッともドンッともつかない鈍い音をたてた割りには痛みが来なかった。
自分が倒れ込んでいるのは分かる。敷居のごく僅かな段差に足を引っ掛けて転んだのも分かる。そして、柔らかい、けれど張りのある布に手がすごく触れているのも分かった。
さっきもかこの感覚あったぞ……。もしかするともしかするんじゃないか?と青くなって顔を上げれば予想通り。綺麗な顔が近くにあって、思わずビクリと身を竦めた。
「……怪我は、ありませんか」
「あ、は、はい。その、大丈夫、です……」
二言三言交わして、また沈黙。……い、居たたまれない……!! 体が強ばってしまって固まっていると、そっと太郎太刀の手が背中に触れるのを感じた。
「今日は、何だか多いですね」
「……え、」
「もしかして、体調があまり良くないのでは」
「いっ、いえいえ! そうではなく!」
「……そうですか。では」
ちょっと心配そうに覗き込む姿に申し訳なくなりながらも誤解は与えないようにと強く否定して、またお互いの近さに俯いた。真正面からなんて耐えられないです、はい。しかし次の太郎太刀の言葉に、思い切り顔を上げる事になる。
「わざとでしょうか」
「ぅえ!?」
な、な、と言葉が出ず、口をパクパクさせる。もう図星だと言っているようなものだった。なんで、どこからバレた!? 自分がいつ失態を、と記憶を高速で辿っていると、上からふ、と笑う気配を感じた。