被害者の会


あの集団に気配を察知されたが最後、私の自由な日曜日が終わる。昨夜から家入先生に駆り出されつい先程終わった夜勤、壁に体をぶつけながらなんとか寮までたどり着いた。歩くのはやっと。頭は素数を1から数えだす程疲弊している。どうか今日くらいは私をベッドで眠らせてください。女神様どうか私に微笑んで!!
共有スペースでなにやら苛立った様子で話し込む先輩達はまだ私の存在には気づいてないとみた。もし気づいていたら真希先輩が悪魔のような顔で肩を掴みに来るはず。パンダ先輩の視線は2人に向いており、狗巻先輩はスマホを見つめている。自室へ変えるには共用スペースを通らなければならない。つまり厄介な先輩達3人に気づかれぬようここを通り過ぎなければならないようだ。なんで夜勤明けの頭で気づかれたら即死ダンジョンを強制プレイさせられているのだろう。私が何をしたって言うんだ。身をかがめ、息を殺し、先輩達の死角になる場所を選んでゆっくり足を前に出す。まずはソファの後ろに隠れようと二歩目を前に出した直後、運悪く鳴った五条先生からの通知音に『私の』日曜日は儚く散った。

「見逃して…」
「そうはさせるかよ。お前も道連れだ」
「真希先輩の鬼」
「文句があんなら悟に言え」

視線が衝突した直後全速力で床を蹴りあげ前方を塞いだパンダ先輩と狗巻先輩を飛び越え、あとは真希先輩の脚力から逃げるだけだと必死に手を振った。しかし死なば諸共な先輩達は後輩の逃走は許さず、狗巻先輩の呪言で動きを止められた後呆気なく真希先輩に回収された。この人達絶対に『俺のことはいい、先にいけ!』を『はい、フラグ乙』と鼻で笑う人達だ。ろくでもないわ…

「ところでなまえは何する予定だったんだ?」
「とりあえず仮眠、からの風呂食事ですね。料理動画見ながらベッドで寝落ちするんです」

最近は授業、任務、解体、解体で忙しく満足にベッドで眠れていなかった。野薔薇ちゃん達と遊びに出かける予定もなく、たまには目覚まし時計をセットせず好きなだけ眠れるなと笑顔を浮かべた矢先にこれだ。ふとした瞬間労働はクソだと吐き捨てる七海さんの気持ちがよくわかる。労働はクソ、呪術師もクソ。

「…すじこ」
「相談ならいつでものるからな」
「たまには馬鹿に言い返しておかねぇと憂太2号になるぞ」

相談に乗ると言っておきながらちゃっかり今回の件は逃がさないあたり流石高専の先輩達だ、優しさのベクトルが違う。あとちょくちょく名前が出てくる乙骨先輩って一体何者…社畜?

「とりあえずなまえは一旦部屋に戻って風呂入ってきな。その間に私らは台車を借りてくる」
「台車って…何用のですか?」
「何用って、パンダ用に決まってんだろ。動ける補助監督がいねぇから交通機関使って運ぶんだよ」

さっき補助監督に電話したらしい。いつもなら快く車を出してくれる伊地知さん今別任務で高専から離れているらしく、他の補助監督も動ける人がいないらしい。それじゃあパンダ先輩は高専待機でいいんじゃないかと提案してみたのだが、真希先輩と狗巻先輩にそれはないと一刀両断した。手間よりも道連れを選ぶのか、この人達本当ブレないなぁ。その人を巻き込む執念深さは何処から生まれるんだろう。

「ツナマヨ」
「そういえばお前よく七海さんに送迎してもらってるよな。説得して川口まで送るよう頼めないのか?」

七海さん…七海さんかぁ。厳しいなぁ。

「無理だと思います。七海さんは休日出勤は絶対にしないことをポリシーにしてますから。多分カスクート片手に日曜日楽しんでると思いますし、普段五条先生からの被害を受けている分休みの日くらいそっとしてあげたいです」
「…こんぶ」
「皆悟に振り回されて大変だな」
「ここには馬鹿の被害者しかいねぇのかよ!!!!」



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