竹谷
あーあ私もC班が良かった。
当時同じクラスの佐藤くんに人知れず思いを寄せていた私は、佐藤くんと同じC班の快活で美人な上に程よく男勝りな【芽依ちゃん】が修学旅行に託けて彼に告白するんじゃないかと気が気じゃなかった。
中学2年生の秋。2時間半かけて新幹線で北上した2泊3日の修学旅行は奈良、京都と順に回りながら日本の古き良き歴史に想いを馳せ、名残惜しくも修学旅行最終日は大阪が誇るテーマパークで半日遊んで思い出作りである。
仲の良い子とグループを作りアトラクションに乗ったり食べ歩いたり…なんて自由は何処にもなく、大人の事情によって出席番号の早い順で規則的に振り分けられた班による集団行動は七面倒臭くてならない。想像して欲しい。所属するグループも違えばこれといった接点もなく、名前だけ知ってるクラスメイトと急にテーマパークで班行動を強いられるのである。テーマパークの陽気なミュージックや非日常を演出する施設を前にしても何を話せばいいのやらで自然と口数も減る。オマケに行動方針は多数決だ。数の暴力が少数意見を潰す。三半規管が弱いからジェットコースターはあまり得意じゃないと乗車を断ったのに、班員5名中4名がジェットコースターに乗りたいと手を挙げたため仕方なく付き合うしかなかった。
毛糸玉を落としたような長く蛇行する列に並び、頭上から聞こえてくる悲鳴に恐怖を煽られながらも先の見えない長蛇を形成する1人として小さな隙間を埋めるように仕方なく前へ進む。前方を見ると班員の子がペアペアでシレッと仲良くなっており、私一人だけ蚊帳の外。寂しさを紛らわすために空を眺めたり列の進み具合を眺めたりしていると2つ蛇行した列の先にC班の芽衣ちゃんがいた。その隣には不運にも佐藤くんが肩を並べており、ケラケラと口元を抑えて楽しそうに笑っては時たまに腕を叩いて巫山戯たりしている。5人で1班構成のはずが、3人と2人に分裂し見るからに2人っきりの空気感がカップル特有のそれで何だかモヤモヤする。
私の方が佐藤くんに片思いしてたのに。小学三年生からずーっと温めてきた想いを押し退け、進学先でぽっと出てきた他所の子が横取りするなんてマナーがなってない。あと狡い。
「あっ」
「わっ!?」
そんな惨めったらしい感情を募らせ誕生間近のカップルを眺めていたバチが当たったのだろう。後ろに並んでいた子のスニーカーの靴先が私のローファーの踵を踏んで転びかけた。転ぶ寸前で前の班員のこの肩を掴んだので転ぶ事はなかったが、急に肩を強く掴まれたことに班員の子は分かりやすく機嫌を損ね、靴先で踏んづけてしまった子は体操気まずそうに視線を泳がせて申し訳なさそうに謝った。
靴を踏んづけた人の雰囲気がほんの少しだけ佐藤くんに似ていたので、緊張して『気にしないでください』の言葉が出てこない。そうやって私がモタモタしてるうちに佐藤くん似の彼を友人達が口々に茶化し『誠心誠意ちゃんと謝った方がいいぞ』と巫山戯出すものだから、徐々に居心地が悪くなって先頭に並ぶ班員の前へと移動した。ああいう男子のノリが私は吐き気を催すほど苦手だ。誠実に謝ってくれた言葉もあの巫山戯たやり取りのせいで全て台無しである。
場所を移動してからは特に会話が発生するようなイベントはなく、乗車口前のキャストに人数を聞かれ、私は独りですと答えた。
同じ班員の子から特に言葉をかけられることはなく、予定通りペアペアの組み合わせで搭乗口のゲート前に案内される。最悪な事に1番前と思わしきゲート前に誘導されてしまい、数分後に待ち受ける拷問にも等しい体験に手を挙げて離脱してしまいたかった。しかし自由時間の半分以上を乗車待ち時間に使ってしまった手前何も経験せずに帰るのはすごくもったいない気がして手を挙げようにも挙げ辛い。オマケに2列を1人乗りできるかと思えば先程私のローファーを踏みつけ感じの悪い友人とつるんでいた学生が相乗りするらしく、気分が重い。
キャストの合図に合わせてゲートが開き席に乗り込む。
「あのさ、もしかしてこういうの苦手?」
「え?…わたし?」
「うん。君に話しかけてる。顔色悪そうに見えるけど、気分は大丈夫か?吐き気はあるのか?良ければ俺が係員に伝えようか?」
「いえ、大丈夫、です。顔色が悪いのは、ちょっと怖そうだなあって…それだけ」
「修学旅行できたのか?」
「そうですけど…貴方も?」
「いや、俺は今日学校が早帰りの日で部活もなかったから友達と直で来たって感じ」
「そっか」
「あのさ、俺の顔を見て何か思うことあったりしないか!?懐かしいとか、見覚えがあるとか」
「片思いしてる同級生の子と少し雰囲気が似てるなぁって」
「お、おほ〜…そ、そっか」
「あの、さ!その。君が他に好きな奴ができても構わないから、せめて俺が君のことずっと、ずーっと想ってる事だけは覚えておいてくれないか?」
その時隣にいた他校の修学旅行生から『なぁ、俺の事覚えてる?』と聞かれ、首を横に振ると『じゃあ俺が君のこと好きだってことは覚えておいて』と言われ、呆気にとられている間にジェットコースタースタート。乗り物から降りると班に呼ばれ恥ずかしさもあって小走りで逃げ出す主に竹谷が、『待ってくれ!おれの…え、た…ざえ…ら!』と大声で自己紹介。
何度も何度も運命を手繰り寄せる竹谷。前世ですれ違ってばかりで結ばれず、最後に思いあうもお別れした二人。記憶のある竹谷と記憶のない主(プロ忍で忍び込んだ城の女中。燃え盛る城から逃げ損ね大火傷)。
次に会ったのは大学受験の会場。主は恋よりも将来を優先してる。友人関係は狭い。
試験中にお腹鳴らしてしまい恥ずかさ故に集中できず、軽食が入った鞄は学校の輸送バスに置きっぱ。水で腹を満たして次に挑むもまたお腹鳴らしてしまい、周りからクスクス笑われて全然集中できない所に、『良ければこれ。箱は開いてるけど中身はあいてないからさ』と知らない人からお菓子貰う。同情されたと思い受け取れない主に、『いいから食べておけって。集中しないと受かるもんも受からないだろ?腹の音に集中力乱されてせっかく頑張った3年間を無駄にするなんてもったいないだろ?な??』と言われありがたく受け取る。ありがとうと伝えると彼はそそくさと消えていった。
3度目の再会は大学2年頃に1年生に向けてサークルのチラシを配ってた時。浪人して入ってきた竹谷と再会。チラシを配った後にあの時の子だと気づき、お礼がしたくて慌てて追いかけようとするもかつての5年生(不破鉢屋)と仲良さそうな空気に話しかける勇気が出ない。ただ名前だけは『八左ヱ門』と呼ばれていることを記憶し、あの日貰ったお菓子の換えを鞄に忍ばせる。何度か探しはしたが自分の人脈の無さで見つからず。
4度目は大学の学園祭。焼きそば焼いてる竹谷と出会う。竹谷から声をかけ、主はこういう時に限ったカバンを違うものにしているためお菓子を返せず。受験のときはありがとうととりあえず言葉を伝えると、竹谷が少し話さないか?と提案。慌てて購買部でお菓子を買って渡すも竹谷と半分こして食べる。『甘いもの好きか?』と聞かれ頷くと竹谷の友人のサークルで売ってるチュロスの券を貰う。焼きそば食べて、美味しい。だろ?前働いてたバイトで焼きそば作ってたから自信あるんだ。
それから何か言いたそうな顔で「あのさ」と口を開いた竹谷だが、その時竹谷の同期が『八〜女装コンテストもうすぐ始まるよ。おら、すね毛ダラけの足見せやがれ』と大人っぽい女の子とのイチャコラを見せつけられて萎縮。
時間があったら午後のステージ見にきてくれ!と言われ、竹谷に絡まれて怖かったでしょ?ごめんね??あたしからちゃんと言っておくからと彼女らしき人が飛び出して、なに期待してるんだろと冷める。
いい匂いがした女の子とソース臭い自分の対比に気落ちする。そして学園祭の舞台上でさっきの女の子に告白される竹谷を見て目を逸らし、断るわけないよねとチュロス食べて家に帰る。友達の延長線で2人ほど付き合うも恋人ごっこがしょうに合わず誰が相手でも自然消滅した。
5度目
大学院に進み病む。助教授に毎日理不尽に叱られ、書いたレポートは全て書き直され、ゼミの読み併せで自分だけねちっこく質問される。その上就活でガクチカの深掘りでメンタルやられ、少しでもいい企業へと資格を取りに電車に乗ってる時、限界が来て泣いてしまう。
英語の資格試験の受験会場に足が動かず、気づいたらコーヒーショップで目元抑えてコーヒーを眺めていると窓ガラスコンコンしてる人がおり、見るとスーツの上着脱いだ竹谷いる。おほー奇遇だな〜!久しぶり!元気…では無さそうだな。と話しかけられ、泣いてる理由を知られ、お前、真面目でなんでも器用にこなす割に息抜きの仕方は下手くそだもんなぁと知ってるような口ぶりで竹谷に息抜きの仕方を教えてもらう。手を引かれアニマルカフェハシゴして焼肉に連れて行ってもらう。『俺昨日内定貰ってさ。だからこれプチお祝いなんだ。お前も食べて祝ってくれ!』と焼けたお肉ひょいひょい皿に盛り付けていく。ずっと白ご飯に焼肉のタレかけて食べていたので久しぶりの脂の乗ったお肉の美味しさに泣く。
煙臭くなった帰り道、竹谷が連絡先教えて欲しいと言い、自分のスマホを取り出しながらおもむろに、私君に言えなかったことがあるの。覚えてるか分からないんだけど、君に受験会場でお菓子をもらって、文化祭でお喋りしたの凄く楽しくて、たまにすれ違った時挨拶してくれる度に君のことが気になってたの。今日は息抜きの仕方教えてくれてありがとう。いつも困った時に現れて、なんだかヒーローみたいだね。
へへと下手くそに笑う主の手を竹谷が握って『好きな子が困ってたら助けに行くのが惚れた男の務めってもんだろ?』『俺、竹谷八左ヱ門。500年前からずっとお前の事愛してる』と言い両手握り締める。かっこいい台詞なのにド緊張で顔真っ赤。そんな八左ヱ門に惚れる。
鉢屋と尾浜にかっこいい竹谷の裏の顔ばらされて欲しい。
主を見かける度に目線釘付けな上に尻尾振ってるし、彼女が鬱状態であることを同じ研究室の不破(留年)が知り、それを聞いた竹谷がリモート面接終わった直後に走って駆けつけてたりしてる。
付き合った後は竹谷が主にベッタリ。
実は大学時代に主と同じ授業を取っていたがレベルが高くて落単しそうになり、久々知に泣きついて何とか食らいついてた。
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