Lantern


藤内姉


半月ぶりに実家へ帰ると母が「どうしましょう…どうしましょう…」と呟きながら戸口でウロウロしていた。「ただいま!」と暖簾を潜り満面の笑みで声をかけても母からのおかえりの言葉はなく、私の声も届かないほどに母の意識は母が握りしめる1冊の本に注がれている。

「お母さん」

その声に母はビクッと肩を揺らし漸く娘の帰りに気づいた。改めて「ただいま」と言い直す。すると母は「おかえりなさい」と娘を抱きしめた。いつものように味噌と焼き魚のいい匂いがする温かい部屋へ迎え入れられると思い平包を背から下ろす私に母は解いたばかりの布端を結び直した。それから満面の笑みで握りしめていた古書を私へ押付けると通ったばかりの戸口へクルッと体の向きを返させた。

「あらあら、お姉ちゃんいいところに帰ってきてくれて助かるわ。この本を藤内に届けてきてちょうだい。なんでも今日が本の返却期限で、昨晩念入りに本を返却する予習をしていたのにうっかり家に置いて行ってしまったみたいなの!」
「え、でも私今帰ってきたばかりなのに!」
「お母さん今から急用で出かけなくちゃいけないのよ。お父さんは夜まで家に帰らないから頼れるのはお姉ちゃんだけなのよ。ね?ね??」

私の返答なんて最初から聞く気もないようで、「お小遣いあげるから朝餉はお外で食べてきたらどうかしら?じゃあお願いね!」とあっという間に家から追い出され、数分前につけた足跡を上塗りするように店も行商人も無い殺風景な道を歩いていく。
ぐぅ、ぐぅと定期的に喚く腹の虫を擦り、時たまに道端に咲いた花を詰んでは花弁の根っこに薄ら分泌された蜜を吸って腹の足しにした。てっきり家に朝餉があると思い勤務先の賄いを他の子に譲ったのだが、こんなことならおにぎり一個くらい食べて帰るんだった。
母から押し付けられた弟の忘れ物『忍者食のススメ』が空腹を煽りジワジワッと苛立ちが募らせ、しかし興味本位で開いた本がかなり特殊嗜好向けのゲテモノ料理本と知るや否やそっと本を閉じ、偶然見つけた団子屋へ立ち寄り自分の分とは別に藤内の手土産を買ってあげた。忍者って想像以上に過酷なお仕事なのね。虫はなんとなく食べるとは思ってたけど爬虫類や雑草まで手を出してたなんてお姉ちゃん何も知らなかったよ。
買った団子をつまみながら山を1つ越え、山賊や野獣が飛び出してきそうな鬱蒼とした森を道から外れないように足早でつっきり、光が差し込む先へ出ると『忍術学園』の文字がでかでかと掲げられた表札が視界に飛び込んできた。
ひっそり構える学舎へ

藤内のお姉ちゃんと不運大魔王
弟の入学式の登校の予習以来だなぁと忍術学園へ入り、小松田の案内のもと藤内の長屋へ向かっていたのだが、小松田が穴に落ち、誰か呼んできてくれませんか?と頼まれ呼びに行こうとしたら遠くから危なーい!と手裏剣が飛んできて、え!?え!?となってると、「あぶない!」と七松が弾き、お怪我はありますせんか?と聞かれ、距離感にびっくりして後ずさったら落とし穴に落ちるも七松が引っ張り落ちることなし。小松田さんを引っ張りあげて

藤内に似てると言われ、姉ですからと答える。なるほど、どおりで(丸くて)可愛いわけだと言われ、その一言が決めてで惚れる。綾部的には、藤内の下級生特有の丸っこい顔に似て可愛いねという上級生目線の可愛い。恋愛とかは一切ない。立花はややこしい気配を察してため息を着く。
保健室で看護されながら藤内到着。藤内に本を渡して、綾部先輩の穴に落ちたって聞いたけど大丈夫だった?綾部先輩、あの灰色髪の方は綾部さんって言うのね。姉さん?藤内、私あの方のこと好きになってしまったの。姉さん!?
こ、告白の予習しなくちゃ。藤内手伝ってくれる?と姉弟で予習始める。

- 10 -

*前次#


ページ: